テスラの新型ロードスターは本当に空を飛んだ?「逆さま走行」と空中回転の仕組み

車が巨大な壁を駆け上がり、そのまま逆さまになって走る。

さらに空中へ飛び出し、車体の向きを変えて4つの車輪で着地する。

そんな映像を見せられたら、「これ、本当に走っているの?」「AIで作った映像では?」と思ってしまいそうです。

2026年10月15日(米国現地時間)、テスラが公開した新型電動スポーツカー「ロードスター(Roadster)」の実演は、まるでSF映画のような内容でした。

ただし、空中で回転する試作車の実演に成功したことと、一般の人が空を飛ぶ車を購入できることは別の話です。

今回の映像を理解する鍵は、車体を路面に吸い付ける「吸引ファン」と、圧縮したガスを噴射する「スラスター」という2つの技術にあります。

巨大な曲線ランプを逆さまに走る白いテスラ新型ロードスターと、空中で姿勢を立て直す様子を描いたイラスト

※ 本文中の画像は、記事の理解を助けるためにAIで制作したイラストです。実際の写真ではなく、人物・場所・状況の表現が実際と一部異なる場合があります。

実演の内容を知ると気になるのは、「なぜ逆さまでも落ちないのか」「どの仕様なら空中で動けるのか」「日本でも購入できるのか」という点でしょう。

今回発表された3つの仕様は、それぞれ用途が異なります。日本でも予約受付が始まっていますが、2028年という生産開始時期はまだ目標です。

新型ロードスターの実演で、いったい何が起きた?

テスラ新型ロードスターが逆さまの曲線ランプから飛び出す実演と、並んだ車両を飛び越える実演を比較した図

今回テスラが披露したのは、単に速く走る電気自動車ではありません。

米テキサス州マクレガーにあるSpaceXの試験施設で、新型ロードスターの試作車が特殊な走行と空中動作を実演しました。主な場面は2つです。(テレビ朝日/ANN・ロイター)

巨大な曲線ランプを逆さまに走行

白いロードスターが大きく湾曲したランプを駆け上がり、車体が上下逆さまになる位置まで進みました。

普通の車なら、タイヤが路面から離れて落下するような姿勢です。ところがロードスターは、車体を路面に吸い付ける仕組みを使い、逆さまの状態でも走行を続けました。

その後、ランプの先端から空中へ出ると、ガスを噴射して姿勢を整え、車輪を下に向けて着地しました。

並べられた5台の車両を飛び越える

もう一つの実演では、Cybercab、Cybertruck、Tesla Semi、Model Y、Model 3など、並べられたテスラ車5台を飛び越えました。

車列の手前でガスの噴射を使って浮上し、空中で車体を回転させて着地するというものです。単にジャンプ台から飛び出したのではなく、車体に組み込まれた推進装置が空中での動きに関わっています。(TechCrunch)

これらは特別な試験環境での実演です。一般道路で自由に飛び回れることや、量産車が同じ動作を再現できることまで証明したものではありません。


車が逆さまでも落ちないのはなぜ?磁石ではなく「吸引ファン」

車体下部の吸引ファンが空気を排出し、ロードスターを逆さまの路面に押し付ける原理を説明した断面図

ロードスターが逆さまに走れた理由は、車体の下に取り付けられたファンが空気を吸い出し、車を路面に押し付ける力を生み出したからです。

磁石で壁にくっついたわけでも、重力が消えたわけでもありません。

普通のスポーツカーにも、高速走行中に車体を地面へ押し付ける「ダウンフォース」という力が働きます。レーシングカーが空気の流れを利用してタイヤのグリップを高めるのも、このためです。

ただし、一般的な空力によるダウンフォースは速度が落ちると弱くなります。

新型ロードスターでは、車体下部の電動ファンで空気を排出し、車体の下側と周囲との圧力差を利用します。テスラは、この仕組みで車両重量の約2倍に相当する押し付け力を生み出せると説明しています。(Car and Driver)

家庭用の吸盤と似ている?

仕組みをイメージするなら、ガラスに貼り付く吸盤を思い浮かべると分かりやすいでしょう。

吸盤は内側の圧力を外側より低くして密着します。ロードスターも圧力差を利用する点では似ていますが、ファンと車体下部の空気の流れを制御する装置を使うという違いがあります。

もっとも、どんな壁でも逆さまに走れるという意味ではありません。路面とのすき間や吸引力、タイヤの接地状態など、成立させるための条件があります。


空中で回転して着地できたのは、ロケットを搭載しているから?

ロードスターの圧縮ガススラスターが車体の上昇、空中での回転、着地姿勢の制御に使われる仕組みを示す図

空中での動きを可能にしたのは、SpaceXの技術を応用した「コールドガススラスター」です。

高い圧力で蓄えたガスをノズルから勢いよく噴き出すと、その反作用で車体に力が加わります。

火を噴くロケットとは何が違う?

一般的なロケットは燃料などを燃焼させ、高温のガスを噴射して推進力を生み出します。一方、コールドガススラスターは、蓄えておいた高圧ガスを噴射する方式です。

燃焼で高温の排気を作らずに力を得られるため、宇宙機の姿勢制御にも使われてきました。

今回のロードスターの試作車は、この技術を車体の浮上や回転に応用しています。テスラの技術責任者は、実演車両について10基のスラスターと約600リットル分の圧縮空気を利用したと説明しました。(TechCrunch)

ガスを噴射する方向を変えれば、上へ持ち上げる力や車体の向きを変える力を生み出せます。ただし、実際の動作にはノズルの配置、車重、ガスの残量などによる制約があります。

では、飛行機のように空を移動できる?

今回確認されたのは短時間の浮上、空中での回転、そして着地です。

飛行機のように長距離を飛び続けたり、道路の渋滞を避けて空中を移動したりする能力が示されたわけではありません。

「飛び上がれる」と「交通手段として飛べる」は別です。


新型ロードスターは3種類ある?普通に買えるモデルも飛ぶの?

新型テスラロードスターのPerformance、Thrust、Rocketの3仕様とスラスターの違いを比較した図

テスラが発表した新型ロードスターには、用途の異なる3つの仕様があります。空中での動作を想定しているのは「Rocket」です。

仕様 主な用途・定員 テスラが示した0→60mph(約97km/h)加速
Performance 公道向け・2人乗り 1.6秒未満
Thrust サーキット向け・2人乗り 0.9秒未満
Rocket 空中動作を想定・1人乗り 0.59秒未満

※ 数値はいずれもテスラの公表する目標・仕様上の値で、量産車について第三者が測定した実績ではありません。(テスラ公式発表・ITmedia NEWS)

Performance:普通の道路で走ることを想定

Performanceは、公道走行を想定した基本仕様です。車体を路面に密着させる吸引システムや可変式の空力装置を備えますが、空中で飛ぶためのスラスターは搭載しない構成です。

今回話題になった空中回転を、このモデルで再現できるわけではありません。

Thrust:加速性能をさらに高める

Thrustは、車体後部にコールドガススラスターを備えるサーキット向け仕様です。

タイヤが路面を押す力だけに頼らず、後方へのガス噴射によって前進方向の加速力を補います。限定販売が想定されています。

Rocket:空中での動作を想定

Rocketは、車体の周囲にスラスターを配置し、上方向への力や回転運動を生み出す仕様です。今回の派手な空中実演と最も直接的に結び付くモデルで、テスラは招待制としています。

なお、従来のテスラ日本向けロードスター紹介ページには「4人乗り」「航続距離1,000km」など、2017年の構想に基づく数値が残っています。

一方、今回の発表では3仕様に応じた座席数と、300マイル(約480km)以上という航続距離が案内されました。旧コンセプトの数値を、新仕様の確定スペックと混同しないことが大切です。(TechCrunch)


0→約97km/hが0.81秒?本当にそんな加速ができるの?

テスラは今回の実演で、停止状態から時速60マイル(約97km)までの加速時間として0.81秒という数値を示しました。

約1秒足らずで高速道路を走る車に近い速度へ到達するという、極めて短い時間です。どうしてそんなことが可能なのでしょうか。

通常の自動車は、モーターやエンジンでタイヤを回して路面を押し、その反作用で前へ進みます。しかし、どれほど強力なモーターを載せても、タイヤが路面をつかむ力には限界があります。

ロードスターのスラスターは、そこに別の推進力を加えます。後ろ向きに高圧ガスを噴射すれば、タイヤだけに頼らず車を前へ押す力を得られるのです。

ただし、0.81秒は公開デモでテスラが示した数値であり、量産車を使った第三者機関の認証記録や、購入者への性能保証ではありません。(Impress Watch・Car and Driver)

日本で一般に使われる「ゼロ百」は時速100kmまでの加速です。今回の数値は時速60マイル、約97kmまでなので、終点も完全には一致しません。

また、Rocket仕様の「0.59秒未満」という公表値も、今回実演した0.81秒と同一の記録ではありません。


2017年に発表されたのに、なぜ生産開始は2028年なの?

2017年の新型ロードスター構想発表から2020年の当初生産予定、2026年の実演、2028年の生産目標までを整理した年表

新型ロードスターの登場がこれほど注目された背景には、2017年の構想発表から約9年が経過していることもあります。

時期 起きたこと
2017年11月 次世代ロードスターの構想を初公開
2020年 当初予定されていた生産開始時期
その後 生産計画が繰り返し延期
2026年10月15日 新デザインの試作車と空中実演を公開
2028年 マスク氏が示した新たな生産開始目標

2017年の発表では驚異的な加速性能や長い航続距離を備えた電動スポーツカーとして期待を集めましたが、予定どおりの生産には至りませんでした。(ロイター)

今回の実演で、もう完成したと考えていい?

まだそうは言えません。テスラが新たなデザインの試作車を披露し、特殊な装置で走行や空中動作を実演したことと、一般向け量産車としての完成は別の段階です。

安定した品質の確保、安全性の検証、販売地域ごとの規制への対応なども必要になります。

マスク氏が示した2028年は、あくまで生産開始の目標です。日本での納車日が決まったという意味ではありません。


日本でも予約できる?「682万円」はロードスターの価格なの?

日本での新型ロードスター予約に必要な68万円と10日以内の614万円、合計682万円と車両価格の違いを説明する図

日本でも、新型ロードスターの予約受付が始まっています。2026年10月16日時点の日本向け案内で予約できるのは、基本仕様のPerformanceです。

支払いの段階 金額
予約時の注文料 68万円
10日以内の追加支払い 614万円
合計 682万円

682万円は予約に必要な金額であり、車両本体の販売価格ではありません。 最終的な車両価格や納車日は、今回の発表では明らかになっていません。(ITmedia NEWS・GQ JAPAN)

予約する場合は、申込金と追加支払いの扱い、キャンセル時の返金条件、左ハンドル仕様であることなどを、実際の契約画面・契約書面で確認する必要があります。(テスラ日本向け予約ページ)

空を飛ぶRocketも日本で注文できる?

現時点で、一般的な日本向け予約手続きからRocketを選べるとは案内されていません。Rocketは招待制とされ、公道向けのPerformanceとは販売条件が異なります。

したがって「日本でもロードスターを予約できる」というニュースを、「日本でも空を飛ぶモデルを注文できる」と受け取るのは正確ではありません。


今回の新型ロードスターで、空飛ぶ車の時代が始まるの?

今回の発表では、自動車にロケット由来の推進技術を組み合わせることで、従来とは異なる動きができることが示されました。

特に、逆さまの路面に車体を密着させたり、空中で姿勢を調整したりする実演には技術的な意味があります。

ただし、日常の交通手段として利用するまでには、大きな隔たりがあります。

  • 特殊な設備のない場所で、どのように安全に浮上・着地するのか
  • 空中でどれくらい長く移動できるのか
  • 人を乗せた状態で繰り返し安全に利用できるのか
  • 公道や空域で使うための認証・許可をどう取得するのか
  • 推進装置の整備や運用にどれだけ負担がかかるのか

これらの点は、今回の短時間の実演だけでは確認できません。

ロードスターは、日常の移動手段をすぐに変える製品というより、テスラとSpaceXが持つ技術を自動車に応用した実証的なスーパーカーと見る方が実態に近いでしょう。

今後は華やかな実演だけでなく、量産車の最終仕様、安全性、価格、そして2028年の生産計画がどこまで具体化するかが焦点です。(WIRED.jp・ロイター)


【結論】このニュースは、こう理解すればいい

テスラの新型ロードスターは、2026年10月15日の発表イベントで、逆さまの路面を走り、空中で回転して着地するという実演を披露しました。

仕組みは大きく2つです。

吸引ファンによって車体を路面へ密着させ、コールドガススラスターによって空中での動きや姿勢を制御する。

ただし、今回の動きは特殊な試作車で示されたもので、一般向けロードスターすべてが飛べるわけではありません。日本で予約できるPerformanceと、空中動作を想定したRocketは異なる仕様です。

0.81秒という加速数値も公開デモでの発表値であり、量産車の性能保証ではありません。2028年の生産開始も目標です。

今回実現したのは「特殊な試作車による空中動作の実演」であって、「誰もが日常的に空を飛べる自動車の実用化」ではありません。


テスラ新型ロードスター、気になる疑問から読み解く

Q. ロードスターの飛行映像はAIで作られたもの?

テスラは、実際の試験施設で行った実演として動画を公開しています。ただし、映像に映った技術の性能が量産車でも再現できるかどうかは、別途確認が必要です。

Q. 逆さまでも走れるのは磁石の力?

磁石ではありません。車体下部の吸引ファンが作る圧力差を利用して、車を路面へ押し付けています。

Q. 空中での回転に使う燃料は何?

実演車両は高圧の空気を噴射するコールドガススラスターを使っています。一般的な燃焼式ロケットのように、燃料を燃やして噴射する方式ではありません。

Q. 日本で予約できるロードスターも空を飛ぶ?

いいえ。日本向けに予約受付が案内されているPerformanceは公道向けで、空中動作を想定したRocketとは異なります。

Q. 0.81秒という加速記録は「ゼロ百」?

厳密には違います。0.81秒は停止から時速60マイル(約97km)までの公表値で、日本でいう時速100kmまでの「ゼロ百」と終点が異なります。

Q. 旧サイトにある「4人乗り・航続1,000km」は最新仕様?

旧コンセプトの案内です。2026年発表の新仕様では、2人乗り・1人乗りの区別と300マイル(約480km)以上という航続距離が示されています。

Q. 予約金682万円は車両の販売価格?

違います。68万円の注文料と614万円の追加支払いを合わせた予約時の必要額で、車両本体の最終価格は別です。

Q. 2028年になれば日本で必ず納車される?

保証されていません。2028年はテスラ側が示した生産開始の目標で、日本での納車日が確定したわけではありません。

Q. 日本の一般道路で空中走行はできる?

今回の実演だけでは確認できません。実演は特別な試験環境で行われ、公道での安全性や必要な認証・許可が示されたわけではありません。

今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂

これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!


主な情報源

発表・実演映像・3仕様の発表

テレビ朝日/ANN:新型ロードスターの逆さま走行・空中回転の報道(2026年10月16日)

テスラ公式X:ロードスターの3仕様と加速性能

FNNプライムオンライン:ロードスターの壁面走行・空中回転を伝える日本語映像

ITmedia NEWS:新型Roadsterの3仕様と日本での予約受付

吸引ファン・スラスターの仕組み

TechCrunch:試作車の空中実演と推進装置の説明

Car and Driver:吸引システム・実演の技術的特徴

生産時期・旧仕様・日本の予約金

ロイター:新型ロードスターの発表、販売方式、2028年の生産計画

GQ JAPAN:日本向け予約金682万円の内訳

テスラ公式:日本向けロードスター予約ページ

テスラ公式:従来コンセプトのロードスター紹介ページ

あわせて読みたい