2040年、医療・介護の人手は足りる?厚労省白書が示すAI・ロボットの本当の役割

「自分が病院や介護を必要とする頃、そこで働く人はちゃんといるのだろうか?」

そんな不安を持っている人は、かなり多いようです。

厚生労働省の調査では、将来の担い手不足について「不安」「やや不安」と答えた人は、医療で74.5%、介護・福祉では81.3%に達しました。調査は2026年1月29日から2月3日まで、国内の20~74歳の男女3000人を対象に行われています。(厚生労働省 · テレビ朝日)

ところが、同じ調査を見ると少し意外な結果があります。

診断を支援するAIや手術ロボット、介護現場の先進機器など、テクノロジーの導入には7割を超える人が前向きなのです。(厚生労働省)

「人が足りないから、将来はロボットに介護されるということ?」

そう思うかもしれません。

しかし、2026年9月29日に公表された令和8年版厚生労働白書が描いている方向は、少し違います。

AIやロボットに人を丸ごと置き換えるのではなく、テクノロジーを活用して現場の負担を減らし、限られた担い手でも質の高いサービスを続けやすくする。

厚生労働省は今回の白書で、人手不足下でのテクノロジー活用と生産性向上を大きなテーマとして掲げています。(厚生労働省)

2040年の医療・介護現場で医療従事者と介護職員をAIやロボットが支援する未来を表したイラスト

※ 本文中の画像は、記事の理解を助けるためにAIで制作したイラストです。実際の写真ではなく、人物・場所・状況の表現が実際と一部異なる場合があります。

では、なぜ「2040年」がこれほど重要なのでしょうか。

なぜ2040年になると医療・介護の人手が厳しくなる?

2040年に高齢者人口がピークに近づく一方で生産年齢人口が減る構造を説明した図

理由は単純な「高齢者が増えるから」だけではありません。

2040年頃には高齢者人口がピークを迎える一方、生産年齢人口は減少し、医療・介護・福祉の現場では担い手確保が大きな課題になると厚生労働省は整理しています。(令和8年版厚生労働白書)

つまり、サービスを必要とする人が多い時期に、働き手を確保する側はむしろ厳しくなるという二重の問題です。

介護だけを見ると、数字はさらに分かりやすくなります。

厚生労働省が都道府県の介護サービス見込み量から集計した必要な介護職員数は、次のようになっています。(厚生労働省)

年度介護職員数
2022年度の実績約215万人
2026年度の必要数約240万人
2040年度の必要数約272万人

ここで注意したいのは、「2040年に57万人不足する」と単純に決まっているわけではないことです。

正確には、2022年度の約215万人と比べ、2040年度には約57万人多い272万人程度の介護職員が必要になるという推計です。

今後どこまで採用・定着できるかによって、実際の不足人数は変わります。

だからこそ国は、「人を増やす」だけではなく、処遇改善や人材確保と並行して、テクノロジーによる生産性向上も進めようとしています。(厚生労働省)


実際、どれくらいの人が「人手不足」を心配している?

医療74.5%と介護・福祉81.3%が将来の担い手不足に不安を感じていることを示す比較図

厚生労働省の3000人調査では、将来の担い手不足に不安を感じる人が、医療で74.5%、介護・福祉で81.3%でした。

しかも年齢が高くなるほど、不安を感じる割合が高い傾向が確認されています。(テレビ朝日)

自分や家族が医療や介護を利用する可能性が現実味を帯びてくるほど、

「病院には行けても診てもらえるのか」

「介護サービスを申し込んでも、人がいないと言われないか」

という心配が強くなるのは自然でしょう。

白書は、人口構造やサービス需要の変化が地域によって異なることも踏まえ、2040年に向けた提供体制を考える必要があるとしています。(令和8年版厚生労働白書)


それなのに、なぜAIやロボット導入には前向きなの?

ICT、AI診断、手術ロボットへの導入賛成割合を比較したグラフ

同じ調査で、医療分野へのテクノロジー導入について尋ねると、結果はかなり前向きでした。

導入する技術「賛成・やや賛成」
電子カルテなどICT82.6%
診断でのAI活用72.4%
手術でのロボット活用74.3%

介護分野でも、ロボットなどの先進機器の導入にはおよそ8割が前向きでした。(厚生労働省 · テレビ朝日)

この数字を「日本人の7割以上が、医師や介護職員をロボットに置き換えてよいと考えている」と読むのは違います。

厚生労働省の調査で、テクノロジー導入に最も期待されていたのは医療・介護従事者の負担軽減でした。(厚生労働省)

つまり、多くの人が期待しているのは、

「人をなくすこと」

ではなく、

「人が足りない中でも、必要なサービスを続けられるようにすること」

だと考える方が実態に近いでしょう。


AIやロボットは、実際に何をするの?

医療・介護現場でテクノロジーに任せる仕事と人が担う仕事を整理した図

医療と介護では、テクノロジーに期待される役割が少し違います。

分野テクノロジーが支援しやすい仕事人の役割が特に重要な仕事
医療記録、情報共有、画像・データ解析、診療支援最終判断、説明、治療方針、患者との対話
介護見守り、記録、情報共有、移乗・排泄などの支援直接介助、状態判断、会話、安心感を与えるケア

令和8年版厚生労働白書では、医療DX、ICT、AI、ロボットなどを活用し、現場の負担軽減や生産性向上につなげる取組が整理されています。(令和8年版厚生労働白書)

介護では、見守り支援、移乗支援、排泄支援、入浴支援、記録・情報共有など、さまざまな介護テクノロジーがすでに導入されています。

大事なのは、「AIが診察する」「ロボットが介護する」という一枚絵ではないことです。

人がしている仕事の中から、テクノロジーが支援しやすい部分を切り分け、専門職が判断や直接ケアに使える時間を確保する。

そうした役割分担として考えると分かりやすくなります。


機械を増やすと、人と接する時間は減らないの?

介護テクノロジーで事務や見守りの負担を減らし直接ケアの時間に振り向ける考え方を示した図

ここは、今回の白書で特に興味深い部分です。

介護ロボット等の導入効果を検証した事例では、排泄支援機器を導入した利用者について、1人当たりの排泄ケア時間が1日平均18.3分から22.5分へ増えた結果が紹介されています。

ただし、この数字は小規模な検証結果で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う衛生管理の影響も考えられるとされています。すべての介護施設で同じ変化が起きると読むべきではありません。(厚生労働省)

一見すると矛盾しているように見えます。

機械を入れて効率化したのに、ケアに使った時間は減っていない。

これは「生産性向上=利用者と接する時間を削る」とは限らないことを考える材料になります。

見守りや記録などの負担をテクノロジーで軽くし、そこで生まれた余力を直接ケアやコミュニケーションに振り向ける。白書は、こうした取組を人手不足下でサービスの質を維持するための方向性として紹介しています。(令和8年版厚生労働白書)


では、AIとロボットを入れれば人手不足は解決する?

医療・介護の人手不足解消にはテクノロジーだけでなく処遇改善や人材確保も必要なことを示した図

答えは、それだけでは難しいです。

厚生労働省は、介護人材の確保に向けて、処遇改善、多様な人材の確保・育成、離職防止・定着促進、生産性向上などを組み合わせて進める方針を示しています。(厚生労働省)

そもそも機器を導入するにもお金がかかります。

厚生労働省の調査では、導入済み機器の平均費用は、見守り支援機器が1台当たり約25万円、入浴支援機器が約332万円でした。介護業務支援機器は「1台」ではなく全体の導入費として集計され、平均約465万円となっています。(厚生労働省)

さらに、施設・サービスの種類によって導入状況には大きな差があります。

機械を購入すれば終わりでもありません。

職員が使いこなせるようにする研修、既存システムとの連携、安全性、個人情報の扱い、故障時の対応も必要です。

そして何より、医療や介護は人との接触そのものがサービスの一部です。

痛みや不安を聞く。

小さな変化に気付く。

本人や家族に説明する。

その日の表情や声から状態を判断する。

こうした仕事まで単純に機械へ移すことはできません。


私たちが2040年までに見るべきなのは何?

今後を見るとき、「新しいAIが出た」「介護ロボットを導入した」というニュースだけを追うと、本質を見失いやすくなります。

見るべきなのは、技術を入れた結果です。

たとえば、

  • 職員の残業や事務時間は減ったのか
  • 患者や利用者と接する時間は確保できたのか
  • 現場で本当に使い続けられているのか
  • 事故や負担の減少につながったのか
  • 地方や小規模事業所にも導入できるのか
  • 医療・介護で働き続けたいと思える待遇になっているのか

といった点です。

2040年問題は「ロボットを何台入れるか」という話ではありません。

減っていく働き手で、どうすれば医療・介護の質を維持できるのか。

そのための道具の一つとして、AIやロボットが急速に重要になっている――今回の厚生労働白書は、そう読むと分かりやすくなります。


【結論】このニュースは、こう理解すればいい

2040年頃の日本では、高齢者人口が高水準となる一方で、生産年齢人口は減り、医療・介護の担い手確保は今より難しくなる可能性があります。

厚生労働省の調査で、将来の担い手不足を不安に感じる人が医療で74.5%、介護・福祉で81.3%に達したのは、その問題が多くの人にとって現実的になっていることの表れです。

一方、AI診断や手術ロボット、介護テクノロジーには7割以上が前向きでした。

ただし、その目的は人間を消すことではありません。

記録、情報処理、見守りなど、テクノロジーが支援しやすい仕事の負担を減らし、医師・看護師・介護職員が判断、説明、直接ケア、コミュニケーションといった人にしかできない仕事へ時間を使いやすくする。

AI・ロボットは、人手不足を一発で解決する答えではなく、少ない担い手でも医療・介護を続けるための重要な支援役として考えるのが今回のニュースのポイントです。


2040年の医療・介護、気になる疑問から読み解く

Q. 2040年になると医療や介護を受けられなくなるのですか?

そう決まっているわけではありません。ただし、高齢者が多い一方で働き手が減るため、現在と同じ人員配置や働き方だけでサービスを維持することは難しくなる可能性があります。

Q. 介護職員は2040年に何人必要ですか?

厚生労働省の推計では約272万人が必要です。2022年度の約215万人と比べると、約57万人多く確保する必要があります。

Q. 「57万人不足する」という意味ですか?

必ずしもそうではありません。57万人は2022年度の実績と2040年度の必要数の差であり、将来どれだけ人材を確保できるかによって実際の不足人数は変わります。

Q. AIが医師の代わりに診断するようになるのですか?

AIによる診療支援は広がる可能性がありますが、今回の白書の中心は医療従事者の業務を支援し、サービスを持続しやすくするためのテクノロジー活用です。医師の最終的な医学的判断まで単純にAIへ置き換えるという話ではありません。

Q. 介護ロボットは何をするのですか?

見守り、移乗、排泄、入浴、記録・情報共有など、職員の身体的・事務的負担を減らす用途があります。すべての介護をロボットが行うという意味ではありません。

Q. テクノロジーを入れると利用者と接する時間は減りませんか?

必ずしもそうではありません。厚生労働白書では、介護ロボット等の導入後に直接ケアの時間が増えた検証例も紹介されています。ただし、個別事例の結果をすべての施設にそのまま当てはめることはできません。

Q. AIやロボットだけで人手不足は解決できますか?

難しいでしょう。技術導入に加えて、賃金や処遇の改善、働きやすい職場づくり、人材育成、地域ごとの医療・介護体制の整備を同時に進める必要があります。

Q. なぜ今、この問題が注目されているのですか?

2040年が遠い未来ではなくなってきたからです。病院や介護施設で働く人を採用・育成し、設備や制度を変えるには時間がかかるため、今から準備を進める必要があります。

今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂
これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!


主な情報源

白書・国民意識調査

厚生労働省「令和8年版厚生労働白書」を公表

厚生労働省「令和8年版厚生労働白書」本文

厚生労働省「令和7年度 少子高齢社会等調査検討事業」

テレビ朝日「医療分野の『担い手不足に不安』7割超」

介護人材の必要数

厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」

介護テクノロジーの効果・導入費

厚生労働省「介護ロボット等による生産性向上の取組に関する調査」

厚生労働省「介護現場における生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくりに資する調査研究事業」


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