マンション大規模修繕で171件の談合、なぜ「業者選びを助ける設計コンサル」まで関わったの?
「何社かが裏で見積価格を合わせていた」というだけの話なのでしょうか。
今回のマンション大規模修繕をめぐる談合事件には、少し理解しにくい点があります。
施工会社同士が競争を避けようとするなら、まだ仕組みは想像できます。
ところが公正取引委員会が認定した行為には、管理組合から施工会社選びの補助などを任されていた設計コンサルタント2社も関わっていました。
しかも、管理組合が決めた「設計予算」の情報を受注予定の施工会社側へ提供し、その会社が受注できるよう見積価格などが調整されていたとされています。(公正取引委員会)
では、住民側から見れば「専門家として業者選びを手伝ってくれる存在」であるはずの設計コンサルが、なぜ施工会社との受注調整に入り込めたのでしょうか。

※ 本文中の画像は、記事の理解を助けるためにAIで制作したイラストです。実際の写真ではなく、人物・場所・状況の表現が実際と一部異なる場合があります。
この構造が分かると、今回の事件が単なる建設業者同士の談合ではない理由が見えてきます。
まず何が起きた?「42社」「38社」「37社」は何が違う?

公正取引委員会は2026年9月28日、関東1都6県のマンション大規模修繕をめぐり、設計コンサルタント2社と施工会社40社、計42社について独占禁止法違反を認定しました。
そのうち38社に再発防止などを求める排除措置命令が出され、施工会社37社には計16億3788万円の課徴金納付命令が出されています。対象となった大規模修繕工事は171件です。(公正取引委員会 · TBS NEWS DIG)
数字がいくつも出てくるので、整理するとこうなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 独禁法違反が認定された事業者 | 42社(設計コンサル2社+施工会社40社) |
| 排除措置命令 | 38社 |
| 課徴金納付命令 | 施工会社37社 |
| 課徴金総額 | 16億3788万円 |
| 談合が認定された工事 | 関東1都6県の171件 |
マンションの大規模修繕工事をめぐり、公取委が行政処分を行ったのは今回が初めてです。対象工事の発注金額は合わせて300億円を超えると報じられています。(テレビ朝日)
ただし、ここで一つ注意が必要です。
171件すべてについて「本来より○円高くなった」と具体的な損害額まで認定されたわけではありません。
公取委が認定した中心は、施工会社同士が本来行うべき競争を受注調整によって実質的に制限していた、という点です。
そもそも設計コンサルは何をする会社なの?

今回の事件を理解するには、まず「設計監理方式」を知る必要があります。
マンションの大規模修繕は、外壁や防水、鉄部など多くの工事が絡み、管理組合だけで工事範囲や適正価格、施工会社の能力を判断するのは簡単ではありません。
そこで管理組合が設計コンサルタントに、建物の劣化診断、工事仕様の作成、見積取得、施工会社の選定補助、工事監理などを依頼する方法があります。
公取委も今回の「設計コンサル業務」を、施工会社の選定補助や調査・診断、設計、工事監理などを含む業務と説明しています。(公正取引委員会)
つまり本来のイメージは、
管理組合 → 専門家である設計コンサルに判断を手伝ってもらう → 複数の施工会社を比較する
という流れです。
この方法自体に問題があるわけではありません。
国土交通省の令和3年度調査では、大規模修繕工事の発注方式として設計・監理方式が80.1%を占めています。広く使われている方式だからこそ、中立性と選定過程の透明性が重要になります。(国土交通省)
問題は、その「比較を助ける側」が施工会社側と受注調整をしていた点です。
談合はどう動いていた?見積もりを取る前に勝者が決まる仕組み

公取委が認定した流れを簡略化すると、かなり分かりやすくなります。
- 設計コンサルなどから施工会社が具体的な発注情報を得る
- 施工会社が「この工事を受注したい」と意思を伝える
- 工事ごとに受注予定者を決める
- 受注予定者側が、他社が管理組合に出す見積価格などを調整する
- 他の会社は指定された価格で見積もりを出したり、見積もり合わせに参加しなかったりする
- 設計コンサルは管理組合から得た設計予算などを受注予定者側に伝え、その意向も踏まえて業務を進める
という構造です。(公正取引委員会)
管理組合の目から見れば、複数社から違う見積書が届いています。
ところが、その金額が事前に調整されていれば、書類上は相見積もりでも、価格競争そのものが働いていないことになります。
公取委は、リノシスコーポレーションについて遅くとも2021年9月27日以降、翔設計については遅くとも同年11月16日以降、こうした受注調整が行われていたと認定しています。(公正取引委員会)
なぜ「設計コンサルまで」が大きな問題なの?

さらに公取委の審査では、もう一つ重要な事実が確認されています。
リノシスコーポレーションまたは翔設計から工事の発注情報を提供された施工会社が実際に工事を受注した場合、工事請負契約金額の一定割合に相当する「手数料等」を施工会社から設計コンサル側へ支払っていたというものです。(公正取引委員会)
ここは誤解しないようにしたい部分です。
公取委は「施工会社から設計コンサルへ手数料を払う行為は、どんな場合でも直ちに違法だ」と一律に認定したわけではありません。
一方で、設計コンサルから施工会社に提供される情報の内容などによっては、こうした金銭の支払いが施工会社同士の自由な競争をゆがめるおそれがあると指摘し、業界団体にも注意喚起を求めています。(公正取引委員会)
実は、この問題は今回初めて指摘されたものでもありません。
国土交通省は2017年、管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルの存在について注意喚起しています。
2018年にも、格安のコンサル料金で受託した後、自社にバックマージンを支払う施工会社が選ばれるよう働きかけ、割高な工事費や過剰な仕様につながる事例が指摘されているとして、管理組合に注意を促していました。(国土交通省)
今回の事件は、以前から業界でリスクが指摘されていた「利益相反」が、大規模な独禁法事件として表面化したものと見ることができます。
修繕積立金にはどれほど大きな話なの?

大規模修繕は、一戸の所有者が自宅の壁紙を張り替えるような工事とは規模が違います。
国土交通省の2021年度調査では、実施された大規模修繕の約7割が12~15年の周期に集中していました。
工事費は建物の規模や工事内容によって大きく変わりますが、同調査では1戸当たり100万~125万円の事例が最も多く、次いで75万~100万円、125万~150万円となっています。(国土交通省)
100戸のマンションなら、戸当たり100万円として単純計算すると1億円規模です。
だからこそ、見積もりが本当に競争によって決まっているのかは、区分所有者にとって非常に大きな問題になります。
ただし今回の171件について、各管理組合が「談合がなければいくら安くなったはずだったか」は別の問題です。
談合が認定されたことと、個々のマンションの具体的な損害額が確定したことは同じではありません。
16億3788万円の課徴金は住民に返ってくるの?

自動的に住民へ分配されるお金ではありません。
課徴金は、カルテルや入札談合などを防止する行政目的で違反事業者に科すもので、公正取引委員会の説明では国庫に納付されます。(公正取引委員会)
一方、独占禁止法違反によって実際に損害を受けた発注者などには、損害賠償を請求する制度があります。公取委は、被害者による損害賠償請求訴訟を支援する観点から、発注者や裁判所への資料提供制度も設けています。(公正取引委員会)
つまり、
| 課徴金 | 損害賠償 |
|---|---|
| 違反事業者が国庫へ納付 | 被害を受けた側が事業者に請求 |
| 公取委による行政措置 | 別途の民事上の手続き |
| 住民への自動返金ではない | 損害の有無や額などを個別に検討 |
という違いがあります。
対象マンションだからといって、すぐに「○万円返ってくる」と考えるのは早すぎます。
実際にどのような対応が可能かは、契約資料や見積資料、命令の確定状況などを確認した上で、必要に応じて専門家へ相談する話になります。
自分のマンションが対象かもしれない。管理組合は何を確認すればいい?

まず確認したいのは、自分のマンションの工事が今回の対象に含まれているかです。
公取委は今回、談合が確認された対象工事を一覧で公表しています。報道でも、関東1都6県の171件についてマンション名が公表されたことが伝えられました。(公正取引委員会 · 読売新聞オンライン配信記事)
対象だった場合、次に重要なのは当時の資料です。
たとえば、
- 施工会社を選定した際の見積書
- 見積もりに参加した会社の一覧
- 公募条件や選定基準
- 理事会・修繕委員会・総会の議事録
- 設計コンサルとの契約内容
- 施工会社との工事請負契約
- 当初予算と最終契約金額
などを整理しておくと、当時どのように発注先が決まったかを追いやすくなります。
ただし、今回名前が挙がった施工会社やコンサルを過去に利用したというだけで、そのマンションの別の工事まで自動的に談合だったことにはなりません。
確認すべきなのは、今回公取委が認定した対象工事なのかどうかです。
国土交通省も今回の処分を受けた同じ9月28日、管理組合などに対し、大規模修繕の発注に関する相談窓口や専門家活用、発注時の留意点を改めて周知しました。
国交省は今回の事案について、管理組合の信頼と利益を害し、適切な大規模修繕の発注を阻害するものだとしています。(国土交通省)
以前から国土交通省が挙げている確認ポイントには、
- 不必要に過剰な工事項目や仕様が入っていないか
- 同規模のマンションに比べ、工事金額が著しく割高ではないか
- 設計コンサルの業務量が不自然に少なくないか
といったものがあります。(国土交通省)
「安いコンサル会社を選べば安心」という単純な話でもないわけです。
今回の事件で「設計監理方式」は危ない方式になったの?
そういう意味ではありません。
設計監理方式そのものは、専門知識を持たない管理組合が施工会社を比較し、工事内容を監理するために広く利用されている仕組みです。
問題は、管理組合から独立した立場で施工会社を評価するはずのコンサルが、その施工会社側と利害関係を持ち、受注調整に関与すると制度の前提が崩れてしまうことです。
国土交通省が2017年から利益相反に注意するよう呼びかけてきたのも、このためです。(国土交通省)
今回、翔設計は9月28日に排除措置命令を受領したと発表し、「マンションの専門家として、高い倫理観と公正性が何よりも求められる立場」にありながら責任を十分に果たせなかったとして謝罪しました。再発防止委員会で発生原因や業務プロセス、内部統制上の課題を検証するとしています。(翔設計)
リノシスコーポレーションも6月の命令案受領時点で、本件を重く受け止め、公取委の手続きに全面的に協力すると発表していました。(リノシスコーポレーション)
今後は個々の会社の再発防止だけでなく、「誰が施工会社を推薦したのか」「予算情報を誰まで共有したのか」「施工会社とコンサルの間に別の金銭関係がないか」といった発注過程の透明性が、これまで以上に問われることになりそうです。
【結論】このニュースは、こう理解すればいい
今回のマンション大規模修繕談合で重要なのは、「施工会社37社に16億円を超える課徴金が出た」という数字だけではありません。
管理組合が専門家として頼った設計コンサルまで受注予定者の決定や予算情報の提供に関わり、本来働くはずだった施工会社同士の競争が崩れていたことが最大のポイントです。
公取委が認定した対象は関東1都6県の171件です。
ただし、171件すべてについて具体的な損害額が確定したわけでも、課徴金がそのまま住民へ返金されるわけでもありません。
自分のマンションが対象か気になる場合は、まず公取委が公表した対象工事を確認し、該当するなら当時の見積書や業者選定資料、契約関係を整理することが出発点になります。
そして今後の大規模修繕では、「何社から見積もりを取ったか」だけでなく、その競争が本当に独立して行われているのかまで見る必要があります。
マンション大規模修繕談合、気になる疑問から読み解く
Q. 今回の談合は何件のマンションで認定されたの?
関東1都6県のマンション大規模修繕工事171件です。設計コンサル2社と施工会社40社、計42社について独禁法違反が認定されました。(公正取引委員会 · TBS NEWS DIG)
Q. 42社なのに排除措置命令が38社なのはなぜ?
「違反が認定された事業者数」と「排除措置命令の対象事業者数」が異なるためです。さらに課徴金納付命令の対象は施工会社37社で、3つの数字は同じ意味ではありません。
Q. 171件すべてで工事費が水増しされたの?
そこまでは認定されていません。公取委が認定したのは、受注予定者や見積価格を事前に調整し、競争を実質的に制限していたことです。個々の管理組合の具体的な損害額は別に確認する必要があります。
Q. 設計コンサルは本来どんな役割なの?
建物の劣化診断、工事仕様の設計、見積取得、施工会社の選定補助、工事監理などを通じ、専門知識が不足しやすい管理組合を支える役割です。
Q. 施工会社からコンサルへの手数料はすべて違法なの?
一律にそう認定されたわけではありません。公取委は、提供される発注情報の内容などによっては、こうした手数料等が施工会社間の自由な競争をゆがめるおそれがあると指摘しています。(公正取引委員会)
Q. 16億3788万円の課徴金はマンション住民に返金されるの?
いいえ。課徴金は違反事業者が国庫に納付する行政上の金銭であり、住民への自動的な返金制度ではありません。(公正取引委員会)
Q. 対象マンションは損害賠償を請求できるの?
独占禁止法違反によって損害を受けた被害者には損害賠償を請求する制度があります。ただし、実際に請求できるか、損害額をどう考えるかは個別事情によるため、課徴金とは別の問題として検討する必要があります。(公正取引委員会)
Q. 自分のマンションが心配な場合、最初に何をすればいい?
まず公取委が公表した対象工事の一覧を確認することです。該当する場合は、当時の見積書、業者選定資料、理事会や総会の議事録、コンサル・施工会社との契約資料などを整理し、必要に応じて国交省が案内する相談窓口や専門家を活用できます。(国土交通省)
今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂
これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!
主な情報源
行政処分・談合の仕組み
公正取引委員会「関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」
TBS NEWS DIG「住民の修繕費用が不当につり上がった可能性も 関東のマンション大規模修繕めぐり42社が談合」
テレビ朝日「設計コンサル業者などに措置命令 マンション大規模修繕工事の受注調整巡り」
大規模修繕・管理組合への注意
国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について」
国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」
国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施」
課徴金・損害賠償制度
公正取引委員会「独占禁止法違反行為に係る損害賠償請求訴訟に関する資料の提供等について」