ルラ大統領が再選したのに、なぜブラジル株は約14%も急落したのか?

大統領選挙で現職の大統領が再選された。

政権が続くのなら、経済政策も大きく変わらないはず。それなのに、ブラジルの株式市場では投げ売りが広がり、取引が一時停止するほどの混乱が起きました。

2026年10月26日、ブラジルの代表的な株価指数は前週末比13.88%下落。新型コロナウイルスの感染拡大で世界の金融市場が揺れた2020年3月以来の大幅な下落となりました。

前日の大統領選で、現職のルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領が再選を決めた直後の出来事です。(B3)

ただし、株価が急落したからといって、ブラジル経済が突然崩壊したわけではありません。

市場が予想していた選挙結果と、実際の結果が大きく食い違ったこと。 そして、新政権の財政運営に対する不安が売りを加速させたことが背景にあります。

ルラ大統領の再選とブラジル株の急落を、大統領の肖像と下落する株価チャートで表したイラスト

※ 本文中の画像は、記事の理解を助けるためにAIで制作したイラストです。実際の写真ではなく、人物・場所・状況の表現が実際と一部異なる場合があります。

ブラジル株はどれほど下がった?取引が止まるほどの異常事態に

ブラジルの株価急落は、一部の企業だけの問題ではありませんでした。市場全体に売り注文が広がり、代表的な株価指数「ボベスパ指数(Ibovespa)」が大幅に下落したのです。

2026年10月26日のブラジル株価指数の終値13.88%下落と取引時間中の最大17.34%下落を比較したインフォグラフィック

10月26日の市場では、次のような動きが確認されました。

項目 10月26日の状況
ボベスパ指数の終値 176,608.23ポイント
前週末からの下落率 13.88%
取引時間中の最大下落率 17.34%
サーキットブレーカー 発動、取引を約30分間停止
下落の大きさ 2020年3月以来の大幅安

(B3 · Reuters)

ボベスパ指数は、日本でいえば日経平均株価のように、その国の株式市場全体の動きを見るための代表的な指標です。

その指数が1日で約14%下がったのですから、ブラジルの金融市場にとって非常に大きな出来事でした。

売りが殺到したため、サンパウロの証券取引所を運営するB3は、取引を一時的に停止する「サーキットブレーカー」を発動しました。

この仕組みが使われたのは、2020年3月のコロナ禍以来です。(Reuters)

では、大統領選挙が終わっただけで、なぜこれほど株が売られたのでしょうか。


なぜルラ大統領の勝利は市場にとって予想外だったのか?

最大の理由は、多くの投資家が右派候補の勝利を見込んでいたことです。

今回のブラジル大統領選挙では、現職のルラ大統領に対し、右派のフラビオ・ボルソナロ上院議員が挑戦しました。

フラビオ氏は、ブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領の長男です。

ブラジル大統領選の第1回投票と決選投票の結果を比較し、市場予想が逆転した流れを示す図

第1回投票では右派候補が先行していた

10月上旬に行われた第1回投票では、フラビオ氏が47.03%、ルラ氏が45.16%の票を獲得しました。

フラビオ氏が首位に立ったことで、金融市場では右派政権への交代を期待する動きが広がります。

右派候補が勝てば、政府支出の抑制や財政改善が進み、企業にとって有利な政策が実施されるのではないか。

こうした期待から、ブラジル株や通貨レアルが買われていました。

実際、決選投票前の10月23日時点では、ブラジル株は第1回投票前に比べて約7%高く、レアルも米ドルに対して約5%上昇していました。(Reuters)

ところが、決選投票で結果が逆転した

10月25日の決選投票では、ルラ大統領が逆転勝利しました。

候補者 決選投票の得票率
ルラ大統領 51.79%
フラビオ・ボルソナロ氏 48.21%

ルラ氏の得票数は約6,426万票。フラビオ氏との差は約443万票でした。(ブラジル高等選挙裁判所)

選挙で勝ったのはルラ氏ですが、金融市場の多くの投資家が想定していたのは、別の候補者が勝利するシナリオでした。

そのため、選挙結果が明らかになると、それまで右派候補の勝利を前提に買われていた株が一斉に売られ始めたのです。


選挙結果だけで株価はここまで下がる?「織り込み」の仕組み

株式市場は、現在の企業業績だけでなく、これから起こると予想される出来事も先回りして株価に反映します。

これを金融市場では「織り込み」と呼びます。

投資家が予想した右派政権への交代と実際のルラ大統領再選による株価の動きを比較した説明図

たとえば、ある企業の業績が来年大きく改善すると予想された場合、その業績が実際に発表される前から株価が上がることがあります。

ところが予想に反して業績が悪化すれば、それまでの期待が一気に修正され、株価が急落する可能性があります。

大統領選挙でも似たことが起きます。

投資家が「政権が交代すれば財政政策が変わる」と期待して株を買っていた場合、政権交代が実現しなければ、その期待を反映した株価も見直されます。

今回のブラジルでは、まさにその巻き戻しが起こりました。

ここで混同したくないのは、株価下落がそのまま国民による政権の評価を表しているわけではないということです。

選挙では、有権者が生活、雇用、社会保障、治安など幅広い問題を考えて投票します。

それに対して株価は、企業の将来収益や金利、財政への不安などをもとに形成される市場価格です。

選挙で支持される政策と、短期的に投資家が歓迎する政策が一致するとは限りません。


ルラ政権の何が心配されている?財政赤字と政府債務の問題

市場が警戒しているのは、ルラ大統領の再選という事実だけではありません。

特に懸念されているのが、政府の支出と借金をどのように管理するのかという問題です。

ブラジル政府の支出増加、財政赤字、国債金利の上昇、株価下落のつながりを示した図

ブラジルでは、社会保障や公共サービスなどに必要な支出が増える一方、政府債務の拡大が課題となっています。

政府の財政が悪化するとの見方が強まれば、投資家はブラジル国債を保有するために、より高い利回りを求めるようになります。

その結果、国債の金利が上昇すると、企業や家計の借り入れにも負担が広がる可能性があります。

株式市場にとっても、金利の上昇は企業の資金調達コストや将来利益の評価に影響します。

ブラジルの政府債務はどれくらいあるのか?

ロイターによると、ブラジルの政府債務残高はGDP比82.9%に達し、ルラ政権の現任期中に10ポイント以上上昇しました。

GDPとは、国内で一定期間に生み出された付加価値の合計です。

政府債務のGDP比は、国の経済規模に対して政府の借金がどれほどあるかを示す指標として使われます。(Reuters)

ただし、債務比率だけで国の財政危機が決まるわけではありません。

金利水準や経済成長率、税収、通貨、国債の保有構造なども重要です。

問題は、ブラジルが今後どのように財政を安定させるのか、市場が十分な確信を持てていないことにあります。

ルラ政権には財政改善の計画がないのか?

そういうわけではありません。

ルラ政権側も財政改善の必要性を認めており、財政収支を段階的に改善する方針を示しています。

10月26日にはダリオ・ドゥリガン財務相が、翌2027年の基礎的財政収支について、従来より高い黒字を目指す考えを明らかにしました。

基礎的財政収支とは、政府の収入と支出の差を、国債の利払い費などを除いて計算したものです。

ただし、財務相は新たな黒字目標の具体的な数字までは示していません。(Reuters)

つまり、政府が何も対策を考えていないという話ではなく、発表される財政改善策が実際に十分な効果を持つのかが問われているのです。


サーキットブレーカーとは?株価が急落すると取引が止まる理由

今回のニュースでは、「サーキットブレーカー」という聞き慣れない言葉も登場しました。

これは株価が短時間に大きく下落した際、市場の取引を一時停止する仕組みです。

ブラジル証券取引所のサーキットブレーカーが下落率10%、15%、20%の各段階でどのように作動するかを示した図

ブラジルの証券取引所B3では、通常、ボベスパ指数の下落率に応じて次のような仕組みが設けられています。

前日終値からの下落率 通常の取引停止措置
10%以上 30分間停止
再開後、15%以上 1時間停止
再開後、20%以上 B3が停止時間を決定

(B3公式解説)

株価が大きく下がっているとき、投資家が一斉に売り注文を出すと、価格の下落がさらに下落を呼ぶことがあります。

取引を一時的に止めるのは、市場参加者が新しい情報を確認し、売買を落ち着いて判断するための時間を確保するためです。

ただし、サーキットブレーカーには株価の下落を直接止める力があるわけではありません。

取引が再開された後、再び株価が下がることもあります。

実際、10月26日のブラジル市場では、最初の30分間の停止後に下落率が一時17%を超えました。(Reuters)

取引停止は市場の安全装置ですが、投資損失が発生しないよう保証する制度ではないのです。


株だけではなかった?通貨レアルも下落し、日本のETFにも影響

ブラジル大統領選の結果を受けた市場の混乱は、株式だけにとどまりませんでした。

ブラジルの通貨レアルも米ドルに対して急落し、ブラジル国債にも売り圧力が広がりました。

ロイターによると、10月26日のレアル相場は米ドルに対して約8%下落しました。(Reuters)

株価と通貨が同時に下がるのはなぜ?

外国人投資家がブラジル株を売却し、その資金を米ドルなどに換えようとすると、レアルを売る需要が増えることがあります。

そのため、株価と通貨が同時に下落する場合があります。

加えて、政府の財政に不安が強まれば、ブラジル国債を保有する投資家も、より高い利回りを要求する可能性があります。

こうした株・通貨・債券の同時売りは、新興国の金融市場が大きな政治的・経済的変化に直面した際に見られる現象の一つです。

日本の投資家にも関係がある?

あります。

日本の東京証券取引所には、ブラジル株の指数に連動するETF(上場投資信託)が上場しています。

たとえば、野村アセットマネジメントの「NEXT FUNDS ブラジル株式指数・ボベスパ連動型上場投信」(銘柄コード1325)は、10月26日に前週末比15.1%下落しました。(松井証券・市場データ)

ブラジル株や新興国株式を組み入れた投資信託を保有している場合も、今回の相場変動が基準価額に影響する可能性があります。

ただし、その影響は組入比率、為替ヘッジの有無、他の投資対象の値動きなどによって異なります。

ブラジルの株価下落率が、そのまま日本のすべての関連投資信託の下落率になるわけではありません。


ブラジル株はこれから回復する?注目すべきは次の財政政策

今回の株価急落だけで、ブラジル株が今後も下がり続けると決まったわけではありません。

金融市場は選挙直後の不確実性に敏感に反応することがありますが、その後の動きは実際の政策や経済状況によって変わります。

今後の重要な材料は、ルラ政権が市場に対してどのような財政運営の道筋を示すかという点です。

特に確認したいのは、次の3つです。

1. 政府支出と財政赤字をどのように管理するか

社会保障や公共投資を維持しながら、政府債務の増加を抑制する具体策を打ち出せるかが問われます。

2. 国債金利と通貨レアルが落ち着くか

通貨や債券市場の混乱が長引けば、企業の資金調達や物価にも影響が及ぶ可能性があります。

3. 財政改善方針を実際の予算と政策に反映できるか

目標を掲げるだけでなく、予算や法制度を通じて継続的に実行できるかが重要になります。

ブラジル政府は10月26日、市場混乱を受けて予定していた一部の国債入札を中止し、臨時の国債買い戻しも実施しました。(Reuters)

こうした短期的な市場安定措置に加え、今後は中長期的な財政政策が試されることになります。

選挙結果への驚きが落ち着いた後、投資家が実際の政策をどう評価するのか。それが次の相場を考えるうえで大きな判断材料になりそうです。


【結論】このニュースは、こう理解すればいい

ブラジルでルラ大統領が再選された直後、株式市場が約14%も急落したのは、選挙で国民が間違った選択をしたという意味ではありません。

金融市場の多くの投資家が予想していた右派政権への交代が実現せず、それまで株価に織り込まれていた期待が急速に修正されたことが、大きな下落の引き金になりました。

そこに、ルラ政権の財政運営や政府債務への懸念が重なり、株式だけでなく通貨や債券にも売りが広がりました。

今回の出来事は、株価が企業の現状だけでなく、政治や政策への期待によっても大きく動くことを示しています。

一方、選挙直後の市場の反応が、その後の政権運営や経済の行方をすべて決めるわけではありません。

次に問われるのは、再選されたルラ大統領が財政改善の具体策を示し、市場の信頼をどこまで回復できるかということです。


ブラジル株価急落、気になる疑問から読み解く

Q. 2026年10月26日にブラジル株は何%下落した?

代表的なボベスパ指数は前週末比13.88%下落しました。取引時間中には下落率が一時17.34%に達しました。

Q. ブラジル大統領選では誰が勝った?

現職のルラ大統領が、フラビオ・ボルソナロ上院議員を破って再選しました。決選投票の得票率は51.79%対48.21%でした。

Q. フラビオ・ボルソナロ氏は前大統領とどんな関係?

フラビオ氏は、ジャイル・ボルソナロ前大統領の長男です。今回の大統領選では右派候補としてルラ氏に挑戦しました。

Q. サーキットブレーカーが発動すると株を売れなくなる?

取引停止の対象となる市場では、その間、新たな売買が成立しなくなります。取引再開後は通常の売買が可能になりますが、価格が下がらないという保証はありません。

Q. ブラジル株の急落は2020年以来だった?

はい。2026年10月26日のボベスパ指数の下落率は、2020年3月以来の大きさでした。

Q. ブラジルの財政赤字はなぜ株価に関係する?

財政悪化への不安が強まると、国債金利や企業の借入金利に上昇圧力がかかり、企業の将来利益に対する評価にも影響する可能性があるためです。

Q. 日本のブラジル株ETFにも影響はあった?

ありました。東京証券取引所に上場するブラジル株指数連動型ETFの一つは、10月26日に前週末比15.1%下落しました。

Q. 今回の暴落でブラジル経済の危機は確定した?

いいえ。大幅な株価下落は深刻な市場の反応ですが、それだけで経済危機が確定したわけではありません。今後の政策や経済指標を継続して確認する必要があります。

Q. ブラジル株は今後すぐに回復する?

現時点では断定できません。今後の財政政策、国債金利、レアル相場、企業業績などによって市場の評価は変わります。

今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂

これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!


主な情報源

大統領選挙の公式結果

ブラジル高等選挙裁判所(TSE)— 2026年大統領選決選投票の結果

ブラジル下院 — ルラ大統領の再選と第1回投票からの逆転

株価急落・取引停止・日本市場への影響

B3 — 10月26日のボベスパ指数と市場動向

Reuters — 10月26日のサーキットブレーカー発動

Reuters — 10月26日の株価下落と終値

松井証券 — 10月26日の日本市場における値下がり率ランキング

市場の反応・財政政策

Reuters — ブラジル大統領選後の金融市場の反応

Reuters — ブラジル財務相が示した2027年の財政改善方針

Reuters — ブラジルの政府債務と財政運営

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