愛知・名古屋アジア大会なのに、なぜ競泳は「東京」でやっているの?
「愛知・名古屋アジア大会」の中継を見ていたら、競泳会場の表示が「東京アクアティクスセンター」。
「名古屋でやる大会じゃなかったの?」
そう思った人もいるかもしれません。
2026年9月20日に始まった競泳は、実際に東京都江東区の東京アクアティクスセンターで行われています。競泳は25日まで、続く飛込も26日から30日まで同じ会場で実施されます。(日本水泳連盟)
ただ、最初から東京開催だったわけではありません。
もともとは名古屋市のレインボープールで競泳と飛込を行う計画でした。ところが国際大会として使用するための条件をめぐり、アジア・オリンピック評議会(OCA)などとの調整が難航。最終的に2023年、東京へ会場を移すことになりました。(愛知県)

では、名古屋のプールには何が足りなかったのでしょうか。
そして、なぜ改修するのではなく、名古屋から離れた東京を選んだのでしょうか。
「愛知・名古屋大会」なのに東京開催でもおかしくないの?

おかしくありません。
大会の正式名称には「愛知・名古屋」と入っていますが、競技会場が愛知県と名古屋市だけに限定されているわけではありません。JOCも大会を「愛知県および名古屋市を中心に開催」と説明しており、東京を含む複数地域に会場があります。(日本オリンピック委員会)
水泳だけを見ても会場は分かれています。
| 種目 | 主な会場 |
|---|---|
| 競泳 | 東京アクアティクスセンター |
| 飛込 | 東京アクアティクスセンター |
| 水球 | 名古屋市総合体育館[レインボープール] |
| アーティスティックスイミング | 古橋廣之進記念浜松市総合水泳場 |
つまり「愛知・名古屋大会なのに東京で競技をしてはいけない」という仕組みではありません。(日本水泳連盟・競泳 · 日本水泳連盟・水球 · 日本水泳連盟・AS · 東京都)
それでも、競泳はもともと名古屋で行う予定でした。
話が変わったのは、会場を国際大会仕様にするための条件が想定以上に厳しかったからです。
レインボープールの何が問題だったの?

「50メートルプールがあるなら、そのまま使えばいいのでは」と思いますよね。
ところが国際大会では、競技用プールそのものだけでなく、選手のウォームアップ、審判、メディア、大会運営、選手やスタッフの動線まで含めた施設全体が審査対象になります。
愛知県の説明によると、2022年5月の視察では、飛込プールの両側に審判席を設けるスペースや大会運営用の部屋が不足していると指摘されました。さらに同年10月のOCAなどによる視察では、競泳・飛込のプールサイドが狭く、国際大会を実施するには十分なスペースがないとの判断が示されました。(愛知県)
OCAとの開催都市契約では、競技会場の場所や構造などについてOCAの承認を得る必要があります。
つまり主催地側が「ここで開催します」と決めるだけでは足りません。
その後も愛知・名古屋側はレインボープールでの開催を目指して調整しましたが、2023年5月27日、OCAから「競泳・飛込の会場として適さない」という最終判断が示されました。(愛知県)
それなら改修すればよかったのでは?

ここが会場変更を理解するうえで最も大きなポイントです。
当初は、老朽化した施設の改修に約34億円、ウォームアップ用の仮設サブプールに約24億円、飛込選手が陸上で練習する「ドライランド」に約8000万円をかける想定でした。(愛知県)
ところがOCAなどの指摘をすべて満たそうとすると、既存のメインプールをウォームアップ用に回し、別に競技用メインプールを仮設する案が必要になりました。
愛知県の試算は約174億円です。
| 仮設メインプール関連 | 概算 |
|---|---|
| 建築工事・プール設備 | 約124億円 |
| その他の設備工事 | 約45億円 |
| 約5,000席の観客席 | 約5億円 |
| 合計 | 約174億円 |
しかも、この約174億円には必要な諸室や通路などの仮設整備費が別途かかるとされていました。(愛知県)
ここは誤解しやすいところです。
「174億円」は東京アクアティクスセンターを借りる費用ではありません。
レインボープールでOCA側の要求を満たすため、競技用メインプールなどを大規模に仮設した場合の概算額です。
愛知県は、この方法は現実的ではないと判断しました。(愛知県)
なぜ東京アクアティクスセンターだったの?

東京には、すでに国際大会向けの施設がそろっていたからです。
東京アクアティクスセンターは東京2020大会の競泳会場として整備された施設で、メインプールは50メートル×25メートルの10レーン。約5,000席の観客席に加え、サブプールやダイビングプールもあります。(東京アクアティクスセンター公式)
愛知県は2023年の会場変更を発表した際、「施設・設備が整い、会場整備費の抑制が可能」な点を東京アクアティクスセンター採用の理由として挙げています。(愛知県)
一から仮設の国際大会用プールを造るより、東京2020大会で整備された既存施設を使う。
大会名だけを見ると不思議な「名古屋から東京への移動」ですが、施設と費用の両方を見ると判断の背景が分かります。
では、レインボープールは「使えないプール」なの?
違います。
今回の問題は「泳げない」「大会に使えない」という単純な話ではなく、アジア大会の競泳・飛込を実施するためにOCAが求める施設条件を満たせるかどうかでした。
実際、レインボープールは今回のアジア大会でも使われています。
競泳・飛込が東京へ移った一方、当初は春日井市温水プールで予定されていた水球についても施設上の問題が指摘され、会場がレインボープールへ変更されました。(愛知県)
整理すると、こうなります。
| 当初計画 | 現在の会場 |
|---|---|
| 競泳・飛込 → レインボープール | 東京アクアティクスセンター |
| 水球 → 春日井市温水プール | レインボープール |
「レインボープールが全面的に不適格になった」という話ではないことが分かります。
競泳以外にも東京へ移った競技はあるの?

あります。
飛込は競泳と一緒に東京アクアティクスセンターへ変更されました。
さらに馬術も、当初予定していた愛知県森林公園から東京都世田谷区のJRA馬事公苑へ変更され、今大会は同会場で実施されます。(東京都)
ただし、馬術の理由は水泳とは少し違います。
愛知県森林公園では既存施設が国際大会の水準に達していないことに加え、クロスカントリーコースの整備や、海外から来る馬の感染症対策に関わる課題が確認されました。ダニを媒介する馬の感染症リスクへの対応も問題となりました。(愛知県)
つまり今回の大会では、名前通り愛知・名古屋を中心にしつつも、既存の国際大会施設を使える競技は東京などへ分散する方式が取られているわけです。
競泳は東京でいつまで行われる?
競泳は2026年9月20日に始まり、25日まで東京アクアティクスセンターで行われます。9月20日には女子200メートルバタフライなど7種目の決勝が実施されました。(日本オリンピック委員会)
その後、同じ施設で9月26日から30日まで飛込が続きます。(東京都)
テレビやネット中継で「愛知・名古屋アジア大会」と表示されながら、画面には東京のプールが映る。
これは中継表示の間違いでも、直前に会場が変わったわけでもありません。
3年以上前から続いていた「国際大会の施設基準」と「会場整備費」をめぐる調整の結果です。
ニュースほどきの一言まとめ
愛知・名古屋アジア大会の競泳が東京で行われているのは、名古屋に競泳プールがないからではありません。
当初予定されていたレインボープールについて、OCAなどからプールサイドや大会運営スペースなどの課題が指摘され、すべての要件を満たす仮設整備には約174億円が必要と試算されました。
そこで、大規模な仮設整備を行うより、東京2020大会で使われた国際基準の東京アクアティクスセンターを活用する方が現実的だと判断されたのです。(愛知県)
愛知・名古屋アジア大会の競泳、気になる疑問から読み解く
Q. なぜ愛知・名古屋アジア大会なのに競泳は東京で行われているの?
名古屋で予定していたレインボープールが、OCAの求める競泳・飛込の国際大会条件を満たすには大規模な追加整備が必要になったためです。既存の国際基準施設である東京アクアティクスセンターへ会場が変更されました。
Q. レインボープールは国際大会に使えない施設なの?
そういう意味ではありません。今回の競泳・飛込に必要なOCAの条件を満たすことが難しかったということで、レインボープール自体はアジア大会の水球会場として使用されています。
Q. 「174億円」は何にかかる費用だったの?
OCAなどの指摘を踏まえ、レインボープールで既存のメインプールをウォームアップ用に使い、別の競技用メインプールを仮設する場合の概算額です。東京アクアティクスセンターの使用料ではありません。(愛知県)
Q. OCAには会場を変更させる権限があるの?
開催都市契約では、競技会場の場所や構造などについてOCAの承認を得ることが条件とされています。そのため愛知・名古屋側だけで会場を最終決定できる仕組みではありません。(愛知県)
Q. なぜ東京アクアティクスセンターが選ばれたの?
東京2020大会のために整備された国際基準の水泳施設で、50メートル10レーンのメインプール、サブプール、ダイビングプール、約5,000席の観客席などがすでにそろっているためです。(東京アクアティクスセンター公式)
Q. 飛込も東京で行われるの?
はい。飛込も競泳と同じ東京アクアティクスセンターで、9月26日から30日まで行われます。(東京都)
Q. 水球はどこで行われるの?
水球は名古屋市総合体育館のレインボープールで行われます。当初予定されていた春日井市温水プールから変更されました。(日本水泳連盟)
Q. 馬術も東京開催なの?
はい。馬術は東京都世田谷区のJRA馬事公苑で行われます。こちらは施設水準や馬の防疫など、水泳とは別の課題を理由に愛知県森林公園から変更されました。(愛知県)
今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂
これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!
主な情報源
競泳の日程・現在の会場
日本水泳連盟「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)」競泳大会情報
東京都「第20回アジア競技大会、東京都内で水泳・馬術を開催」
会場変更の経緯・約174億円の試算
愛知県「第20回アジア競技大会 水泳・馬術会場の変更について」知事記者会見
東京アクアティクスセンターの施設
東京都スポーツ文化事業団「東京アクアティクスセンター メインプール」