18歳未満は選挙運動できないはずなのに、なぜ東京地裁は「違憲」?原告の請求が認められなくても重要な理由

「18歳未満は選挙運動をしてはいけない」。

そう聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。

実際、公職選挙法137条の2には、現在も「年齢満十八年未満の者は、選挙運動をすることができない」と書かれています。(e-Gov法令検索)

ところが2026年9月25日、東京地裁はこの一律禁止について、表現の自由を保障する憲法21条1項に反すると判断しました。(TBS NEWS DIG)

「法律に禁止と書いてあるのに、裁判所は違憲と言った。それなら18歳未満でも今日から選挙運動をしていいの?」

さらに不思議なのは、原告側が「違憲」という判断を得た一方で、損害賠償などの請求そのものは認められなかったことです。(時事通信)

この二つを分けて考えると、今回の判決がかなり分かりやすくなります。

18歳未満の選挙運動禁止を違憲とした東京地裁判決を表現したイラスト

判決は「18歳未満なら何をしても自由」としたものではありません。

自分の意思で選挙運動をすることまで年齢だけで一律に禁止する規定と、大人や候補者側が18歳未満を選挙運動に使うことを禁止する規定を分けて判断したところが重要です。

東京地裁は何を「違憲」としたのか?

公職選挙法137条の2第1項と第2項に対する東京地裁の判断の違いを示した図

東京地裁が違憲とした中心は、18歳未満の本人が自発的に選挙運動をすることを一律に禁止する部分です。

現在の公職選挙法137条の2は、二つのルールを定めています。(e-Gov法令検索)

規定 内容 東京地裁の判断
第1項 18歳未満本人の選挙運動を禁止 違憲
第2項 他人が18歳未満を使って選挙運動をすることを禁止 合憲

東京地裁は第1項について、18歳未満の人が自分の関心や価値判断に基づき選挙運動に参加することまで禁止する実質的な根拠は見いだしにくいと判断しました。

未成年者が選挙運動に参加した場合に、どのような具体的な弊害が生じるのかについても、十分な検討がされたとは認めがたいと指摘しています。(時事通信)

一方で、候補者や大人が18歳未満を「使用して」選挙運動をさせることについては、未成年者を保護する必要性が高いとして禁止規定を合憲としました。(時事通信)

ここを混ぜると、「高校生を選挙に動員することまで自由になった」という全く違う話になってしまいます。


そもそも「選挙運動」は普通の政治活動と何が違う?

選挙運動と一般的な政治活動の違いを比較したインフォグラフィック

ここはかなり誤解されやすいところです。

公職選挙法上の「選挙運動」は、単に政治について話したり、政策について意見を述べたりすること全部を指すわけではありません。

東京都選挙管理委員会は、選挙運動を「特定の選挙で、特定の候補者の当選を目的に投票を勧めること」と整理しています。これに対し、それ以外の政治上の活動は「政治活動」として区別されています。(東京都選挙管理委員会)

たとえば選挙期間中に、

「○○候補に投票してください」

と呼びかけたり、特定候補を当選させる目的でSNS投稿を拡散したりすれば、内容によっては選挙運動に当たります。

一方で、

「教育費をもっと議論してほしい」

「この政策には賛成だ」

といった政治的な意見の表明が、直ちにすべて選挙運動になるわけではありません。

選挙運動ができる期間も決まっていて、原則として立候補の届け出後から投票日前日までです。(港区)

つまり今回争われたのは、18歳未満の人から政治について考えたり話したりする自由そのものを奪う制度ではなく、特定の候補者を当選させるための「選挙運動」を一律に禁じている制度です。


なぜ70年以上続いた一律禁止を「合理性がない」とした?

18歳未満の選挙運動一律禁止を違憲とした東京地裁の判断理由を整理した図

18歳未満の選挙運動禁止は、1952年の公職選挙法改正で導入された規制です。

国側は裁判で、前年の地方選挙で多数の未成年者が動員される弊害があったとして、選挙の公正を守ることや未成年者を保護することを規制の理由として主張しました。(共同通信)

東京地裁も、未成年者を大人が利用することを防ぐ必要そのものを否定したわけではありません。

しかし問題は、「だから本人が自分の意思で行う選挙運動まで全部禁止する必要があるのか」という点でした。

裁判所は、未成年者自身による選挙運動一般を禁止する必要性が高いとはいえず、必要かつ合理的な規制として認めることはできないと判断しました。(時事通信)

つまり構造としては、

未成年者を守る必要がある
=18歳未満本人の自発的な選挙運動まで全部禁止してよい

とはならない、と判断したことになります。

憲法21条は、言論や出版など「一切の表現の自由」を保障しています。東京地裁は今回、選挙運動への参加も政治的な表現に関わる重要な自由として扱いました。(e-Gov法令検索)


違憲なのに、なぜ原告の請求は認められなかった?

違憲判断と国家賠償請求が別の問題であることを説明した図

ここが今回いちばん分かりにくいところかもしれません。

「法律の規定が憲法に反するか」と、「国会がその規定を改正しなかったことについて国家賠償責任まで生じるか」は別の判断です。

東京地裁は、18歳未満本人による選挙運動の一律禁止については憲法21条に反すると判断しました。

一方で、原告側が求めた選挙運動をできる地位の確認や損害賠償などの請求は認められませんでした。損害賠償については、国会が規定を改正しなかったことが国家賠償法上の違法な「立法不作為」に当たるとは認めず、規定が作られた時点で権利侵害が明白だったとまではいえないなどとして退けています。(時事通信 · TBS NEWS DIG)

そのためニュースを見出しだけで追うと、

「違憲と判断されたのに、なぜ原告の請求は認められないの?」

という一見矛盾した状態に見えます。

しかし裁判所が判断した問いを分ければ、矛盾ではありません。

裁判所が判断したこと 結論
18歳未満本人の選挙運動を一律禁止してよいか 憲法21条に違反
18歳未満を他人が選挙運動に使うことまで自由にすべきか 禁止は合憲
国が賠償金を払うほど立法対応が違法だったか 認めず

「違憲」という言葉だけで裁判全体の勝ち負けを判断できない理由がここにあります。


では、18歳未満は今日から選挙運動をしてもいい?

東京地裁の違憲判断後も公職選挙法の条文が残っている状況を説明した図

今回の判決だけを見て「18歳未満でも今日から自由に選挙運動できるようになった」と考えるのは早いです。

2026年9月26日時点で、e-Govの公職選挙法には137条の2の「年齢満十八年未満の者は、選挙運動をすることができない」という条文が残っています。(e-Gov法令検索)

今回の東京地裁判決によって、その条文が自動的に法律から削除されたわけではありません。

しかも原告側は、判決後の時点で控訴するかどうかを検討するとしています。主文上は国側が勝訴しているため、国側からは控訴できないと報じられています。(毎日新聞)

今後は、

  1. 原告側が控訴するのか
  2. 上級審で憲法判断がどう扱われるのか
  3. 国会が公職選挙法を改正するのか
  4. 選挙管理実務がどう整理されるのか

が重要になります。

少なくとも現段階では、「東京地裁が違憲と判断した」ことと、「法律上の禁止がすでに消えた」ことは同じではありません。


「投票は18歳から」と今回の裁判はどうつながる?

1952年の選挙運動禁止から18歳選挙権、2026年の違憲判断までを整理したタイムライン

もう一つ、この判決を理解するうえで欠かせないのが時代の変化です。

18歳未満の選挙運動禁止は1952年に導入されました。(共同通信)

その後、日本では2015年の公職選挙法改正によって選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ、2016年から18歳・19歳も投票できるようになりました。(文部科学省)

学校教育でも、若い世代が社会や政治について主体的に考えるための「主権者教育」が進められています。(文部科学省)

時系列にするとこうなります。

時期 主な動き
1952年 18歳未満の選挙運動禁止につながる規定を導入
2015年 選挙権年齢を18歳以上へ引き下げる改正法成立
2016年 18歳選挙権が実際の選挙で適用開始
2025年2月 高校生らが東京地裁に提訴
2026年9月25日 東京地裁が本人による一律禁止を違憲と判断

提訴した4人は、選挙運動が禁止されたことで応援したい候補者の活動に参加できなかった経験などを訴えてきました。(CALL4)

今回の判決は、投票できる年齢をさらに下げるかどうかを判断したものではありません。

投票権は18歳からという現在の制度を前提にしながら、投票権を持たない17歳以下の人の政治的表現をどこまで制限できるのかが問われた裁判です。

ここを分けて考えることが大切です。


ニュースほどきの一言まとめ

東京地裁が違憲と判断したのは、18歳未満を大人が選挙に動員することを禁止するルールではなく、18歳未満本人が自分の意思で行う選挙運動まで年齢だけで一律に禁止するルールです。

裁判所は、それは政治的な表現の自由に対する重大な制約であり、一律禁止を正当化する十分な合理性がないと判断しました。

一方で国家賠償は認められず、公職選挙法137条の2の条文自体も現時点では残っています。

そのため今回のニュースは、

「18歳未満の選挙運動が即日全面解禁された」ではなく、「70年以上続いた一律禁止について、東京地裁が初めて憲法違反と判断した」

と理解するのが正確です。


18歳未満の選挙運動、気になる疑問から読み解く

Q. 18歳未満は現在も選挙運動を禁止されていますか?

公職選挙法137条の2には現在も、18歳未満は選挙運動をすることができないという規定が残っています。東京地裁が違憲判断を示しましたが、条文が自動的に削除されたわけではありません。(e-Gov法令検索)

Q. 東京地裁は公職選挙法137条の2すべてを違憲としたのですか?

いいえ。18歳未満本人の自発的な選挙運動を一律禁止する部分は違憲としましたが、他人が18歳未満を使用して選挙運動をさせることを禁じる規定については合憲と判断しました。(時事通信)

Q. なぜ18歳未満の選挙運動禁止が違憲とされたのですか?

東京地裁は、18歳未満本人が自らの関心や価値判断で選挙運動に参加することまで禁止する十分な根拠がなく、一律禁止は必要かつ合理的な規制とは認められないと判断しました。(TBS NEWS DIG)

Q. 選挙運動と政治活動は同じですか?

同じではありません。選挙運動は特定の選挙で特定候補の当選を目的とする活動で、それ以外の政治上の活動とは公職選挙法上区別されています。(東京都選挙管理委員会)

Q. 18歳未満が選挙運動をすると罰則がありますか?

現行法では、禁止規定に違反した選挙運動には1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金などが定められています。公民権停止の規定もあります。(共同通信)

Q. 違憲なのに、なぜ国は賠償しないのですか?

法律の憲法適合性と国家賠償責任は別の問題だからです。東京地裁は規定を違憲としつつ、国会が改正しなかったことが国家賠償上違法だったとまでは認めませんでした。(時事通信)

Q. 投票できない17歳でも表現の自由はあるのですか?

今回の判決は、投票権の有無とは別に、選挙運動への参加が憲法21条の表現の自由に関わる問題だと判断しました。(e-Gov法令検索)

Q. 今後は何が焦点になりますか?

原告側が控訴するか、上級審が今回の違憲判断をどう扱うか、さらに国会が公職選挙法を見直すかが主な焦点になります。判決直後の時点で原告側は控訴を検討するとしています。(毎日新聞)

今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂
これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!


主な情報源

東京地裁判決・訴訟の内容

東京地裁「未成年者選挙運動禁止規定違憲確認等請求」期日情報

TBS NEWS DIG「未成年の選挙運動禁止は『憲法違反』 東京地裁」

共同通信「未成年選挙運動禁止は『違憲』 公選法規定合理性なし、東京地裁」

時事通信「未成年の選挙運動禁止は『違憲』=元高校生ら、賠償は認めず―東京地裁」

毎日新聞「未成年者に『不合理な制約』 東京地裁、公選法規定に違憲判断」

公職選挙法・憲法上のルール

e-Gov法令検索「公職選挙法 第137条の2」

e-Gov法令検索「日本国憲法 第21条」

東京都選挙管理委員会「選挙運動と政治活動の違い」

18歳選挙権・主権者教育

文部科学省「主権者教育の推進に関する検討チーム 中間まとめ」

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