飯塚事件、死刑執行から約18年で「DNA型不一致」と弁護側 なぜ第3次再審請求を準備するのか

死刑は2008年に、すでに執行されています。

「それでも、今から裁判をやり直すことができるの?」

まず、そこが気になるところです。

しかも飯塚事件では、2回目の再審請求をめぐる手続がまだ最高裁で続いています。

「2回目が終わっていないのに、なぜ3回目を準備するの?」

今回のニュースを理解するには、この二つを分けて考える必要があります。

2026年9月24日、飯塚事件の弁護側が、新たなDNA鑑定結果を証拠として第3次再審請求を準備していることが明らかになりました。弁護側は、1990年代の捜査で「一致した」とされたDNA型について改めて資料を検証した結果、久間三千年元死刑囚と犯人のDNA型は一致しないと判断したとしています。現段階では、これは弁護側が新たな鑑定に基づいて示している主張であり、裁判所が「不一致」と認定したわけではありません。 (テレQ · 共同通信)

飯塚事件の第3次再審請求準備とDNA鑑定の争点を示すイラスト

では、34年前の事件でDNA鑑定の何が新しく変わったのでしょうか。

今回の「新たな鑑定結果」は以前のDNA争点と何が違うのか?

飯塚事件で過去のDNA鑑定資料を再検証し不一致を主張する流れを示した図

今回、新しく見つかったのは「別の場所から採取された新しいDNA」ではありません。

対象となったのは、当時のDNA型鑑定に使われた写真のネガフィルムなど、以前から存在していた鑑定資料です。ネガフィルム自体も2026年に初めて見つかった資料ではなく、2012年に弁護団へ開示されました。第1次再審請求でも、本田克也氏の鑑定書などをもとに科警研のDNA型鑑定の信用性が争われています。 (共同通信 · 最高裁判所)

今回のポイントは、弁護側がその鑑定資料を改めて検証し、従来より一歩踏み込んで「久間元死刑囚と犯人のDNA型は一致しない」とする鑑定結果を、第3次再審請求の新証拠にしようとしていることです。共同通信の配信記事では、ネガに切り取られた痕跡があり、端に写ったものの位置や形状などから不一致と判断したと報じられています。 (共同通信)

ここで大切なのは、「過去のDNA鑑定には疑問がある」という話と、「久間元死刑囚ではないことが裁判で確定した」という話は同じではないことです。

新たな鑑定を裁判所がどう評価するのかは、これからの再審請求手続で争われることになります。


そもそもDNA鑑定は、有罪判決でどんな役割を果たしたのか?

飯塚事件の有罪認定でDNA鑑定や車両の目撃など複数の情況証拠が使われたことを示す図

飯塚事件では、久間元死刑囚と犯行を直接結び付ける場面を示すような直接証拠ではなく、複数の情況証拠を積み重ねて有罪認定が行われました。

その一つが、警察庁科学警察研究所による「MCT118型」と呼ばれる当時のDNA型鑑定です。

確定判決では、被害者側から採取された犯人由来と考えられる血液のDNA型と、久間元死刑囚のDNA型が一致したとされたことに加え、血液型、事件現場周辺で目撃された車両など複数の事情が考慮されました。 (裁判所 · 東京弁護士会)

ところが、第1次再審請求ではDNA鑑定の評価に重要な変化がありました。

福岡地裁は、科警研のMCT118型鑑定について、久間元死刑囚と犯人のDNA型が一致したという結果を、そのまま有罪認定の根拠として使うことはできない状況になっているとの趣旨を示しました。

それでも裁判所は、DNA鑑定以外の情況証拠を合わせれば確定判決の認定には合理的な疑いが生じないとして、再審開始を認めませんでした。最高裁も2021年4月、第1次再審請求について特別抗告を棄却しています。 (最高裁判所)

つまり、この事件ではすでに一度、

「DNA鑑定の証明力には以前より慎重な評価が必要だが、それだけでは確定判決全体は崩れない」

という判断が示されています。

今回の第3次再審請求で重要になるのは、弁護側が主張する「不一致」という新たな鑑定が、そこからさらに確定判決全体を揺るがす力を持つのか、という点です。


死刑が執行された後でも、再審はできるのか?

死刑執行後でも遺族が再審請求できる日本の刑事訴訟法の仕組みを説明した図

できます。

刑事訴訟法439条1項4号は、有罪判決を受けた本人が死亡した場合でも、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が再審を請求できると定めています。

さらに441条は、刑の執行が終わった後でも再審請求ができると定めています。つまり、死刑がすでに執行されたからといって、法律上、確定判決を検証する道まで完全に閉ざされるわけではありません。 (e-Gov法令検索)

飯塚事件では、久間元死刑囚に対する死刑が2008年10月28日に執行されました。

その後、遺族が2009年10月28日に第1次再審請求を行い、2021年7月9日に第2次再審請求へ進んでいます。 (裁判所)

もちろん、再審請求ができることと、再審が実際に始まることは別です。

再審を開始するには、確定した有罪判決を見直すだけの法定の再審理由があると裁判所に認められる必要があります。


2回目の再審が続いているのに、なぜ3回目を準備できるのか?

飯塚事件の第2次再審と第3次再審で争点となる証拠の違いを比較した図

再審請求は、何度でも全く同じ理由を繰り返せる制度ではありません。

刑事訴訟法447条2項は、一度「理由がない」として再審請求が棄却された場合、同一の理由でさらに再審請求することはできないとしています。 (e-Gov法令検索)

逆に言えば、新しい証拠などによって前回とは異なる再審理由を構成する場合には、新たな請求が問題となり得ます。

飯塚事件では、この違いが分かりやすく表れています。

手続 主な新証拠・争点 現在の状況
第1次再審 DNA型鑑定の信用性、目撃証言の信用性など 最高裁まで棄却
第2次再審 事件当日の目撃状況をめぐる新証言など 最高裁に特別抗告中
第3次再審 DNA鑑定資料の再検証による「型が一致しない」とする新鑑定 弁護側が請求準備中

第2次再審では、2024年6月5日に福岡地裁が請求を棄却しました。2026年2月16日には福岡高裁も即時抗告を棄却し、弁護団は同月24日に最高裁へ特別抗告しました。 (裁判所 · TKCローライブラリー · 共同通信)

その一方で、第3次再審ではDNA鑑定の再検証という別の新証拠を柱にする方針です。

審理中の再審請求と並行して別の再審請求を申し立てるのは異例と報じられています。今回の第3次請求は、第2次で中心となった目撃証言とは別に、DNA鑑定資料の再検証を新証拠の柱にする方針です。 (TNC)


34年間の流れを並べると、今回の位置が見えてくる

1992年の飯塚事件発生から2026年の第3次再審請求準備までを整理したタイムライン

飯塚事件は、通常の刑事裁判が終わった後も長期間にわたって再審手続が続いている事件です。

主な流れをまとめると、こうなります。

時期 主な出来事
1992年2月20日 福岡県飯塚市で小学1年生の女児2人が登校途中に行方不明となり、翌21日に遺体が発見される
1994年9月23日以降 久間三千年氏が逮捕され、その後、殺人などで起訴される
1999年9月29日 福岡地裁が死刑判決
2006年10月8日 死刑判決が確定
2008年10月28日 死刑執行
2009年10月28日 遺族が第1次再審請求
2014年3月31日 福岡地裁が第1次再審請求を棄却
2018年2月6日 福岡高裁が即時抗告を棄却
2021年4月21日 最高裁が特別抗告を棄却
2021年7月9日 第2次再審請求
2024年6月5日 福岡地裁が第2次再審請求を棄却
2026年2月16日 福岡高裁が即時抗告を棄却
2026年9月24日 新たなDNA鑑定結果をもとに第3次再審請求を準備していることが報道

(裁判所 · 最高裁判所 · 東京弁護士会 · テレQ)

この長い経過を見ると、第3次再審請求は突然出てきた話ではないことが分かります。

DNA鑑定と目撃証言という確定判決を支えた情況証拠について、再審請求のたびに異なる新証拠をもとに争われてきた延長線上にあります。


「DNA型が違う」なら、今度こそ再審が始まるのか?

まだ分かりません。

今回報じられた「DNA型が一致しない」という内容は、現時点では弁護側が依頼した再鑑定に基づく評価です。

裁判所は、その鑑定自体の信頼性だけでなく、確定判決で使われた他の証拠と合わせた時に、有罪認定に合理的な疑いが生じるほどの証拠なのかを検討することになります。

第1次再審請求でも、裁判所は従来のDNA型鑑定を単純に有罪の根拠にできないとしながら、他の情況証拠を合わせれば確定判決は揺らがないと判断しました。 (最高裁判所)

そのため、第3次再審で焦点となるのは、

「昔のDNA鑑定がどこまで信用できるか」

だけではありません。

新しい鑑定結果を加えたとき、事件全体の証拠構造をもう一度見直す必要があるほどの疑いが生まれるのか。

ここが大きなポイントになります。

そして2026年9月25日時点では、第3次再審請求はまだ「準備中」です。

まず実際にいつ福岡地裁へ申し立てられるのか、新鑑定書に具体的に何が記載されているのか、検察側がどう反論するのかが次の焦点です。

同時に、第2次再審請求をめぐる最高裁の特別抗告がどう判断されるかも続いています。


ニュースほどきの一言まとめ

飯塚事件で新しく明らかになったのは、弁護側が過去のDNA鑑定資料を再検証し、「久間三千年元死刑囚と犯人のDNA型は一致しない」とする新たな鑑定結果をもとに第3次再審請求を準備していることです。

ただし、「DNA型不一致」は現時点で裁判所が認定した事実ではなく、弁護側が提出しようとしている新証拠の内容です。

死刑が執行された後でも、日本の刑事訴訟法では一定の遺族が再審を請求できます。また、過去の請求とは異なる新しい理由・証拠があれば、新たな再審請求が問題となり得ます。

今後は、新しいDNA鑑定が単に従来の鑑定への疑問を強めるだけなのか、それとも確定判決全体に合理的な疑いを生じさせる証拠と評価されるのかが最大の焦点になります。


飯塚事件、気になる疑問から読み解く

Q. 飯塚事件の第3次再審請求は、もう申し立てられたのですか?

まだ「請求準備中」と報じられている段階です。弁護側は新たなDNA鑑定書を証拠として福岡地裁に申し立てる方針を示しています。

Q. 今回、本当に久間三千年元死刑囚と犯人のDNA型が一致しないと分かったのですか?

弁護側が依頼した再検証では「一致しない」と判断されたと報じられています。ただし、裁判所がその鑑定を認定したわけではなく、今後の再審請求で評価されます。

Q. 新しいDNAを発見したのですか?

新たな人体試料からDNAを採取したという話ではありません。当時のDNA型鑑定に使われた写真のネガフィルムなどを改めて分析したものです。

Q. 死刑が執行された後でも再審請求できますか?

できます。刑事訴訟法は、本人が死亡した場合に配偶者や直系親族、兄弟姉妹などが再審を請求できると定め、刑の執行が終わった後の再審請求も認めています。

Q. 第2次再審請求は終わったのですか?

終わっていません。2026年2月に福岡高裁が即時抗告を棄却しましたが、弁護側が最高裁に特別抗告しており、2026年9月25日時点ではその手続が続いています。

Q. 2回目が終わっていないのに3回目の再審請求をすることはできるのですか?

同一の理由を繰り返すことには制限がありますが、今回の第3次請求はDNA鑑定の新たな再検証結果を柱にする方針です。審理中の別の再審請求と並行するのは異例と報じられています。

Q. DNA鑑定が否定されれば確定判決は自動的に覆るのですか?

自動的には覆りません。第1次再審請求でもDNA鑑定の証明力について慎重な評価が示されましたが、裁判所は他の情況証拠を総合して再審開始を認めませんでした。

Q. 今後、何を見ればいいですか?

第3次再審請求が実際に申し立てられる時期、新鑑定書の具体的な内容、検察側の反論、そして第2次再審請求について最高裁がどのような判断を示すかが焦点です。

今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂
これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!


主な情報源

第3次再審請求・新たなDNA鑑定

テレQ「34年前の飯塚事件 『DNA型不一致』の“新証拠”で3回目の再審請求へ」

共同通信「飯塚事件、第3次再審請求へ 犯人DNA型と不一致主張」

福岡TNC「34年前の飯塚事件で3回目の再審請求へ」

第1次再審・DNA鑑定の過去の争点

最高裁判所「平成30年(し)第76号 再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件」

大阪弁護士会「『飯塚事件』の再審請求棄却決定に関する会長声明」

第2次再審・現在の手続

福岡地方裁判所「令和3年(た)第3号 決定」

TKCローライブラリー「飯塚事件第2次再審請求即時抗告棄却決定」

共同通信「飯塚事件で弁護団が特別抗告 再審認めなかった高裁決定に不服」

再審請求の制度

e-Gov法令検索「刑事訴訟法」

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