ナイキは苦戦、アディダスは復活。かつて危機に陥った2社の明暗はなぜ分かれた?
少し前までは、スニーカー売り場の主役といえばナイキとアディダス。どちらも世界的な人気を誇るブランドですが、近年は業績に違いが出ています。
アディダスは2023年に赤字へ転落したものの、2025年には過去最高の売上高を記録。一方、ナイキは2026年10月に公表した直近四半期でも減収が続きました。
同じスポーツ用品市場で戦い、似た問題も抱えていた2社です。それなのに、なぜ回復の速さが違うのでしょうか。
答えは、サンバという人気スニーカーの存在だけではありません。何を売るかに加え、誰が商品を選び、どこで、どのくらい売るか。その仕組みを変えたことが、アディダスの再建を支えました。

※ 本文中の画像は、記事の理解を助けるためにAIで制作したイラストです。実際の写真ではなく、人物・場所・状況の表現が実際と一部異なる場合があります。
まず数字を確かめてから、危機と復活の道筋をたどってみましょう。
アディダスの業績は、どこまで回復したのか?
2025年の売上高は約248億ユーロで過去最高、営業利益は前年比54%増。これは一時的な売上増だけでなく、利益を出す力も戻ってきたことを示しています。

アディダスの公表資料から、回復の流れを整理すると次のようになります。
| 時期 | 主な数字 | 何が分かる? |
|---|---|---|
| 2023年通期 | 継続事業の純損益が5,800万ユーロの赤字 | 経営再建が必要な状態だった |
| 2024年通期 | 営業利益13億3,700万ユーロ | 利益が大きく回復した |
| 2025年通期 | 売上高248億1,100万ユーロ、営業利益20億5,600万ユーロ | 売上高が過去最高となった |
| 2026年上半期 | 売上高133億3,500万ユーロ、営業利益12億7,900万ユーロ | 前年同期比で増収・増益が続いた |
数字の基準は年次と半期で異なります。また、2023年は純損益が赤字だった一方、営業利益は黒字でした。「会社の本業まで完全に赤字だった」という意味ではありません。(アディダス2023年決算 · アディダス2025年決算 · アディダス2026年上半期決算)
対照的にナイキが2026年10月1日に発表した2027会計年度第1四半期(2026年6~8月)の売上高は、前年同期比4%減の約112億ドルでした。大中華圏の不振が続く一方、北米などには改善も見られます。両社は決算期も通貨も違うため、売上額をそのまま並べて『どちらが上』と決める比較はできません。(ナイキ公式決算)
そもそもアディダスは、なぜ危機に陥ったのか?
原因は一つではありません。中国市場の失速、在庫の膨張、そして大ヒット事業「Yeezy(イージー)」との決別が重なりました。

中国市場で何が起きた?
アディダスにとって中国は重要な市場でした。しかし、新型コロナ禍に伴う行動制限や消費の変化に加え、新疆ウイグル自治区の綿花をめぐる人権問題で欧米ブランドへの反発が広がりました。
新疆の綿花生産には強制労働の疑惑が指摘され、欧米企業などが懸念を示しました。一方、中国政府は強制労働の指摘を否定しています。2021年にはナイキやアディダスへの不買を呼びかける動きが報じられました。これを「中国市場の失速の唯一の原因」と見るのは正確ではありませんが、逆風の一つだったことは確かです。(Reuters配信記事 · アディダス2022年決算)
さらに、中国のスポーツブランドやランニングなどの専門ブランドが存在感を増しました。かつての「とりあえずナイキかアディダス」という選択だけでは、消費者をつなぎ留めにくくなっていたのです。
Yeezyとの決別は、なぜ大きな痛手だった?
Yeezyは、アーティストのYe(旧カニエ・ウェスト)とアディダスが展開した人気スニーカー事業です。ところが、Yeの反ユダヤ主義的な発言などを受け、アディダスは2022年10月に提携を即時終了しました。(アディダス公式発表)
人気商品を突然売れなくなれば、売上だけでなく在庫も問題になります。実際、2022年末のアディダスの在庫は約59億7,300万ユーロまで増加していました。その後、同社は2023年と2024年に残ったYeezy商品を段階的に販売し、2024年に在庫の販売を完了しています。契約終了と同時にすべての在庫を廃棄したわけではありません。(アディダス2022年決算 · アディダス2025年決算)
新CEOは何を変えた?「本社が決める」から「市場の近くで決める」へ
2023年1月、プーマの経営トップを務めた経験もあるビョルン・グルデン氏がアディダスのCEOに就任しました。再建の軸に据えたのは、商品・消費者・小売店との関係を重視し、各市場の判断を速くすることです。(アディダスCEO就任発表 · アディダス2022年決算)

世界共通のブランドであっても、日本と中国、欧州では好まれる商品や流行の速さが異なります。現地の売れ行きを確かめながら、商品構成や販売方法を調整しやすくする考え方です。
グルデン氏は2026年3月の決算発表でも、消費者に近いところへ意思決定を移し、現地の需要に合った商品を提供する方針を説明しています。これは一度の流行を当てるためではなく、次の変化にも対応できる組織を目指す改革といえます。(アディダス2025年決算)
サンバとガゼルが売れた。それだけで復活できたのか?
サンバやガゼルの再人気は回復のきっかけになりました。ただし、ヒット商品を増産するだけでは、売れ残りや大幅値引きでブランド価値を傷つけかねません。

2023年、アディダスはサンバ、ガゼル、スペツィアルに加え、キャンパスなどの需要が回復していると説明しました。同時に、注文が好調でも供給を急増させすぎない方針を示しています。(アディダス2023年第3四半期決算)
その背景にあるのが「定価で売れる状態」を守る考え方です。商品が余れば値引きが増え、買い手は『待てばもっと安くなる』と思うようになります。すると新商品まで売りにくくなる悪循環が生まれます。
アディダスは在庫の整理と、定価販売を重視する方針を並行して進めました。2022年末に約59億7,300万ユーロだった在庫は、2023年末には約45億2,500万ユーロに減少。ただし2026年半ばにはW杯関連商品などの供給確保を優先して在庫が増えており、在庫は減らし続ければよいわけでもありません。売れる時期に必要な量を届けられるかどうかが重要です。(アディダス2023年年次報告書 · アディダス2026年上半期決算)
販売店との関係は、ナイキと何が違ったのか?
もう一つの重要な違いは、自社店舗・公式通販と、外部の小売店の両方をどう使うかという問題です。

企業が自分の店や公式サイトで直接売る方法を「DTC(消費者への直接販売)」と呼びます。間に小売店が入らない分、顧客データや価格を管理しやすい一方、幅広い店舗で商品を見てもらう機会は減りかねません。
ナイキは以前、DTCを拡大する方針を進め、のちに卸売パートナーとの連携も重視するようになりました。アディダスも直販を伸ばしていますが、小売店との関係修復と売り場の確保を明確に打ち出しました。(ナイキ米SEC提出書類 · アディダス2025年決算)
2025年のアディダスは、為替変動を除く伸び率で卸売が12%増、自社直販が14%増となりました。どちらか一方を捨てたのではなく、買い物をする場所に合わせて接点を増やしたと理解すると分かりやすいでしょう。(アディダス2025年決算)
ただし、ナイキの苦戦をDTC戦略だけで説明することもできません。新商品の競争力、中国市場、値引きなど複数の問題が重なっており、同社も改革を続けています。
ランニングとW杯は、どう回復につながったのか?
アディダスの成長は、昔ながらのスニーカーだけに支えられているわけではありません。2026年にはランニングやサッカーなど、実際の競技で使う商品の伸びが目立ちました。

2026年4~6月、アディダスの競技用品事業「Performance」の売上高は、為替変動を除いて前年同期比39%増。サッカーとランニングが成長をけん引しました。日常着としてのスニーカー市場には値引き競争もあり、競技向け商品の伸びがそれを補う役割を果たしています。(アディダス2026年第2四半期決算)
サッカーでは2026年7月19日のW杯決勝で、アディダスがユニフォームを提供するスペインとアルゼンチンが対戦。スペインが延長戦の末に1対0で優勝しました。両チームが同じブランドを着て世界中の注目を集めたことは、広告とは異なる形でブランドの存在感を示す機会になりました。(FIFA公式大会結果 · アディダス公式キャンペーン)
ただし、大会で目立つことと、利益が増えることは別です。広告や契約には費用がかかります。この差は、後で株価の動きにも表れます。
日本と中国では、何が変わっているのか?
アディダスは「世界共通のブランド」を保ちながら、各市場の好みに合った商品や販促を重視しています。危機の一因となった中国でも、足元の売上は持ち直しました。

2026年上半期の売上高は、為替の影響を除くと大中華圏で前年同期比16%増、日本・韓国を合わせた地域で21%増でした。日本だけで21%増えたという意味ではない点に注意が必要です。(アディダス2026年上半期決算)
日本ではサンバやガゼルなどの定番モデルに加え、ランニングやサッカーの需要も重要です。アディダスの2025年年次報告書も、日本・韓国地域でライフスタイル分野と競技用品の双方が成長したと説明しています。(アディダス2025年年次報告書・日本/韓国)
ここで分かるのは、復活が特定の国や一つの人気商品だけで起きたわけではないことです。地域ごとに異なる需要を拾えたかどうかが、業績の差につながっています。
それなのに、なぜアディダスの株価は急落したのか?
売上が好調でも、投資家が期待したほど利益が伸びなければ、株価は下がることがあります。 アディダスの2026年7月30日の決算発表は、その分かりやすい例でした。

この四半期、売上高は為替変動を除いて前年同期比14%増えましたが、営業利益の伸びは5%にとどまりました。会社はW杯関連のキャンペーンなどで、前年同期より2億1,200万ユーロ多くマーケティングに投じたと説明しています。(アディダス2026年第2四半期決算)
報道によると、営業利益が市場予想に届かなかったことなどから、発表当日の株価は一時約19%下落しました。販売増を喜ぶ会社と、費用や今後の成長を厳しく見る投資家では、評価する点が違っていたのです。(Reuters)
さらに、サンバなどの流行が落ち着いた後にも需要を伸ばせるか、米国の関税や為替の影響を吸収できるかという課題も残ります。2026年通期についてアディダスは7月時点で為替変動を除く売上成長率9~10%、営業利益約23億ユーロを見込んでいますが、これは確定した実績ではなく会社の予想です。(アディダス2026年第2四半期決算)
では、この先はどこを見ればいいのか?
アディダスの復活が一時的なものではないかを見極めるには、サンバ以外の定番商品が育つか、競技用品の成長が続くか、広告投資に見合う利益を確保できるかがポイントになります。
一方のナイキも、販売店との協力や競技用品の立て直しを進めています。2026年10月公表の決算でも粗利益率の改善が見られ、全面的に後退しているわけではありません。今後、北米での回復を中国や他地域に広げられるかが問われます。(ナイキ公式決算)
以前は二大ブランドの競争として見られがちだったスポーツ用品市場も、ランニングやアウトドアなどで専門ブランドが選ばれる場面が増えています。だからこそ、昔の人気だけで売れ続けることは難しくなっています。
【結論】このニュースは、こう理解すればいい
アディダスは、2022~2023年に中国市場の逆風やYeezyとの提携終了、過剰在庫が重なって苦境に陥りました。しかしその後、現地市場での判断を速くし、小売店との関係を整え、サンバなどの人気と競技用品の成長を業績回復につなげました。
復活の理由は『流行の靴が一足当たったから』ではなく、『人気を売上と利益につなげる仕組みを立て直したから』と考えると、2社の違いが見えてきます。
ただし、アディダスの再建が終わったわけでも、ナイキの巻き返しが不可能になったわけでもありません。次の人気商品を生み、適切な数量を売り、利益を確保し続けられるか。競争はまだ続いています。
アディダス復活とナイキの苦戦、気になる疑問から読み解く
Q. アディダスは2023年に本当に赤字だった?
はい。2023年の継続事業の純損益は5,800万ユーロの赤字でした。ただし、営業利益は2億6,800万ユーロの黒字です。
Q. アディダスの2025年の売上高はいくら?
248億1,100万ユーロで、同社の過去最高でした。営業利益は20億5,600万ユーロとなり、前年比54%増えました。
Q. Yeezyの商品は契約終了後、すべて廃棄された?
いいえ。アディダスはYeとの提携を2022年に終えましたが、残った商品を2023年と2024年に段階的に販売しました。
Q. サンバが売れたことだけが業績回復の理由?
いいえ。サンバなどの人気に加え、在庫管理、小売店との関係強化、各市場の判断の迅速化、競技用品の拡大が回復を支えました。
Q. アディダスの2026年の業績はどこまで分かっている?
2026年10月17日時点で公表済みの主要な実績は上半期までです。売上高は約133億ユーロで、通期の数値は会社予想として扱う必要があります。
Q. 日本でアディダスの売上は21%増えたの?
その数字は日本単独ではありません。2026年上半期の「日本・韓国」合算地域の売上成長率で、為替変動を除いた前年比21%増です。
Q. W杯決勝にはどの国が進んだ?
2026年の決勝はスペイン対アルゼンチンで、スペインが延長戦で1対0の勝利を収めました。両チームともアディダスがユニフォームを提供しています。
Q. 過去最高売上なのに、なぜ株価が下がったの?
2026年7月の決算では売上は好調だった一方、マーケティング費用の増加などで営業利益が市場予想に届きませんでした。好調な売上だけでは投資家の高い期待を満たせなかったのです。
今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂 これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!
主な情報源
経営再建・過去の業績
2025~2026年の実績・販売戦略
ナイキ:2027会計年度第1四半期決算(2026年10月発表)