トランプ氏の国連演説にマクロン氏とルラ氏が異論 3人は何をめぐって食い違ったのか?

「トランプ大統領がマクロン大統領やブラジルのルラ大統領をまとめて脅したの?」

9月22日の国連総会をめぐるニュースを続けて見ていると、そんな印象を持った人もいるかもしれません。

トランプ氏はイランに対して極めて強い言葉を使い、マクロン氏はその数時間後にトランプ氏のガザ和平をめぐる主張に異論を唱えました。ルラ氏も同じ国連総会で、外国による選挙への干渉を強く警戒しました。(Reuters・トランプ演説 · Reuters・マクロン演説 · Reuters・ルラ演説)

ただし、ここで一つ整理しておく必要があります。

3人が同じ問題をめぐって正面衝突したわけではありません。

マクロン氏が問題にしたのは主にガザと国際秩序。ルラ氏が警戒したのはブラジル大統領選や中南米への外国の介入です。そしてルラ氏は、国連演説でトランプ氏を名指ししていません。

国連総会で異なる主張を示したトランプ大統領、マクロン大統領、ルラ大統領を描いたイラスト

さらに意外なのは、マクロン氏がトランプ氏を批判する一方で、別の問題では米国と協力を続けていることです。

この違いが分かると、今回の国連総会が単なる「トランプ対その他の首脳」という話ではないことが見えてきます。

まず3人は、同じ問題でぶつかっていたの?

トランプ大統領、マクロン大統領、ルラ大統領が国連総会で示した主な論点を比較した図

いいえ。同じ日に同じ国連総会で強い言葉が出たため一つの対立に見えますが、中心となる論点はそれぞれ違います。

首脳 主に語った論点 米国との食い違いが見えた部分
ドナルド・トランプ米大統領 イラン、ガザ、ICC、米国の安全保障 米国の軍事力と主権を前面に強調
エマニュエル・マクロン仏大統領 ガザ、パレスチナ、国際法、多国間主義 トランプ氏の「ガザ和平」評価に異論
ルラ・ブラジル大統領 ブラジル選挙、中南米の主権、組織犯罪 外国による選挙・内政への介入を警戒

しかも演説の順番も重要です。

国連総会の一般討論では、1955年以来の慣例でブラジルが最初に演説し、開催国の米国が続きます。つまりルラ氏の発言は、直後に行われたトランプ氏の国連演説への「反論」ではありません。それ以前から続いていた米国との緊張を背景にした発言です。(国連ブラジル)

一方、マクロン氏はトランプ氏より後に演説しました。ガザをめぐる発言は、数時間前に同じ演壇で語ったトランプ氏の主張を意識した内容でした。


トランプ氏は国連で何を言ったの?

トランプ大統領の国連演説で示されたイランへの強硬姿勢と米国第一の外交方針を整理した図

トランプ氏の演説を一言で整理すると、「国際問題を長く放置するより、米国の力を使って解決する」という考え方を強く打ち出した演説でした。

ホワイトハウスも演説後、「他の者が語っている間に自分は行動した」というトランプ氏の発言を前面に出し、米国の力と主権を強調しました。(ホワイトハウス)

とくに注目されたのがイランです。

トランプ氏は、イランと合意を結ぶのか、それともイランを「壊滅させる」のかという極端に強い表現を使いました。同時に、11月3日の米中間選挙後には合意に至る可能性があるとの見通しも示しています。(Reuters)

つまり、軍事行動だけを宣言したわけではありません。

強い軍事的圧力を見せながら、交渉による決着の選択肢も残すという構図です。

ガザについても、トランプ氏は自身の和平計画を外交上の成果として説明しました。

ところが、そこにマクロン氏が異論を唱えます。


マクロン氏はなぜトランプ氏の「ガザ和平」に異論を唱えたの?

トランプ大統領のガザ和平評価とマクロン大統領の人道状況への評価の違いを示した比較図

マクロン氏が問題にしたのは、「和平と呼ぶなら、現地の人道状況は本当に改善しているのか」という点です。

トランプ氏が自身のガザ和平を成果として語った数時間後、マクロン氏は国連総会で「一部の人々は和平を誇っている」と述べながら、人道支援のアクセスが再開されていないと指摘しました。ガザの状況について「私たち全員が恥じるべき光景」とも述べています。(Reuters)

これに対しホワイトハウスは、トランプ氏がイスラエルとハマスの戦争を終結させ、ガザ和平計画の実施を主導しているとの立場を示しました。これは米政権側の評価であり、マクロン氏は現地の人道アクセスが回復していない点を問題視しています。(Reuters)

ここだけを見ると、トランプ氏とマクロン氏は完全に対立しているように見えます。

ところが、その理解では不十分です。

マクロン氏はトランプ氏と対立だけをしていたわけではありません。

国連総会に合わせた21日の会談では、両首脳はウクライナのエネルギー施設などへの攻撃を止めるための取り組みや、中東情勢、エネルギー市場の安定について協議しました。フランス大統領府は会談を踏まえ、両国が協力する方針を説明しています。(フランス大統領府)

さらにフランスは米国と連携し、ホルムズ海峡の航行を確保するための国連安保理決議案も検討しています。(Reuters)

つまり、

ガザでは異論がある。

しかし、

ウクライナやホルムズ海峡では協力する。

これが現在の米仏関係を理解するうえで大切なところです。


では、ブラジルのルラ氏は何に怒っていたの?

ブラジルのルラ大統領が警戒する大統領選への外国干渉と米国との摩擦を整理した図

ルラ氏の中心テーマは、マクロン氏とはまったく違います。

10月4日に予定されるブラジル大統領選と、自国の政治に外国が介入することへの警戒です。ブラジル高等選挙裁判所(TSE)の公式日程でも、第1回投票は10月4日とされています。(TSE)

ルラ氏は国連演説でトランプ氏を名指ししませんでした。しかし「ブラジルは誰かの裏庭に収まる国ではない」と述べ、国内外の勢力が国民の意思を損なうことを許さないと訴えました。(Agência Brasil)

Reutersは、この発言の背景として、トランプ氏がルラ氏の対立候補であるフラビオ・ボルソナロ氏を支持していることや、米国とブラジルの間で関税・治安政策をめぐる摩擦が続いていることを挙げています。(Reuters)

さらにルラ政権は、ブラジルの犯罪組織を「テロ組織」と位置づける米国側の動きにも反発しています。

ルラ氏の立場は、組織犯罪対策で国際協力は必要だが、ブラジル国内への外国勢力の介入は受け入れない、というものです。

ここで重要なのは、ルラ氏の発言を

「トランプ氏の国連演説に腹を立てて、その場で反論した」

と理解しないことです。

ブラジルは米国より先に演説しています。

ルラ氏が語ったのは、国連総会の数時間前に突然生まれた対立ではなく、選挙、関税、安全保障をめぐって以前から積み重なっていた米国との摩擦でした。


3人の違いを並べると、何が見えてくる?

トランプ、マクロン、ルラ3氏の外交観を力、多国間主義、主権の観点から整理した図

今回の国連総会では、個別の政策だけでなく、国際社会をどう動かすのかという考え方の違いも見えました。

視点 トランプ氏 マクロン氏 ルラ氏
国家の力 米国の力と行動力を強調 力だけでなく国際法と協調を重視 大国による介入を警戒
国連・多国間主義 国連や国際機関を強く批判 国連を中心とする多国間主義を擁護 国連改革を求めつつ多国間主義を支持
主権 米国自身の主権を強く強調 国家間のルールと国際法を重視 ブラジルへの内政干渉を拒否
今回の具体的争点 イラン、ガザ、ICCなど ガザ、パレスチナ、国際秩序 ブラジル選挙、中南米、治安政策

もちろん、この表だけで3人の外交政策すべてを説明できるわけではありません。

ただ、「トランプ対マクロン・ルラ」という一つの対立にまとめるより、どの問題で意見が違い、どの問題では協力できるのかを分けて見る方が実態に近いことは分かります。


では、日本はこの話をどう見ればいい?

日本にとっても、これは遠い国同士の口論ではありません。

同じ9月22日、高市早苗首相はニューヨークでトランプ氏と首脳会談を行いました。両首脳は経済安全保障、経済、安全保障など幅広い分野で協力をさらに強化し、日米同盟を一層強固にすることで一致しています。(外務省)

高市首相は翌23日の記者会見で、トランプ氏が国連演説で批判した国際刑事裁判所(ICC)について、日本は「一貫して支持している」と説明しました。その立場を踏まえて、トランプ氏とも率直に意見交換したとしています。(首相官邸)

ここにも、マクロン氏との関係と似た構造があります。

同盟国だから、すべての問題で同じ意見になるわけではない。

一方で、一つの政策で意見が違うからといって、その国との協力全体が崩れるわけでもありません。

国際ニュースを見るとき、「仲が良い国」「対立している国」という二択だけで考えると、こうした外交の動きが分かりにくくなります。


これから何を見れば、この対立の行方が分かる?

まず中東では、トランプ政権がイランとの交渉を再開できるのかが焦点です。トランプ氏自身は強硬な表現を使う一方、合意の可能性も示しています。

ガザでは、マクロン氏が問題視した人道支援のアクセスが実際に改善するのか。トランプ氏が主張する和平の成果を現地の状況がどこまで裏付けるかが一つの基準になります。

ブラジルでは10月4日の大統領選が控えています。米国政府やトランプ氏が選挙までにどのような発言や政策を取るか、それに対してルラ政権がどう反応するかも注目点です。

そして日本では、日米同盟を強化しながら、ICCや国際法、多国間主義をめぐる立場の違いをどう調整するのかを見る必要があります。

今回の国連総会は、誰が誰を批判したかだけを見るよりも、「協力する問題」と「意見が分かれる問題」が同時に存在すると考えた方が理解しやすいニュースです。


ニュースほどきの一言まとめ

今回の国連総会で起きたのは、単純な「トランプ氏対マクロン氏・ルラ氏」という一つの対立ではありません。

トランプ氏はイランを含む安全保障問題で米国の力を前面に出し、マクロン氏はガザの人道状況と多国間主義を重視して異論を示しました。ルラ氏はブラジル大統領選を前に、外国による内政・選挙への干渉を警戒しました。

しかもフランスは米国とホルムズ海峡やウクライナ問題で協力しており、日本も日米同盟を強化しながらICCでは異なる立場を示しています。

外交は「味方か敵か」だけではなく、問題ごとに協力と対立が同時に存在する。

そこまで分けて見ると、今回の国連総会で3人の首脳が何を訴えていたのかが、かなり分かりやすくなります。


トランプ国連演説、気になる疑問から読み解く

Q. トランプ氏はマクロン氏やルラ氏を直接脅したの?

確認できる範囲では、そのような構図ではありません。トランプ氏が極めて強い警告を向けた主な対象の一つはイランで、マクロン氏とルラ氏は別々の政策分野で米国との違いを示しました。

Q. トランプ氏は本当にイランを「壊滅させる」と言ったの?

はい。国連総会で、イランと合意するのか、それともイランを「annihilate(壊滅させる)」のかという選択肢に言及しました。ただし同時に、交渉による合意の可能性も示しています。(Reuters)

Q. マクロン氏は何についてトランプ氏を批判したの?

主にガザ和平の評価です。トランプ氏が和平の成果を強調したのに対し、マクロン氏は人道支援へのアクセスが回復していないと指摘しました。

Q. フランスと米国は関係が悪化しているの?

すべての分野で対立しているわけではありません。ガザでは立場の違いがありますが、ウクライナやホルムズ海峡などでは協力を進めています。

Q. ルラ氏は国連でトランプ氏の名前を出したの?

今回の演説ではトランプ氏を名指しせず、外国による選挙干渉や大国の「覇権的な動き」への警戒として語りました。(Reuters)

Q. なぜブラジルと米国の間で選挙の話が問題になっているの?

ブラジルでは10月4日に大統領選の第1回投票が予定されています。トランプ氏がルラ氏の対立候補を支持していることなどを背景に、外国からの影響をめぐる議論が続いています。(TSE · Reuters)

Q. ルラ氏はトランプ氏の国連演説を聞いて反論したの?

その理解は正確ではありません。国連総会ではブラジルが最初、開催国の米国がその次に演説するのが慣例で、ルラ氏はトランプ氏より先に演説しています。

Q. 日本もトランプ政権と意見が違う問題があるの?

あります。高市首相は日米同盟の強化を確認する一方、ICCについては日本が一貫して支持する立場だと説明しており、トランプ氏と率直に意見交換したとしています。

今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂
これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!


主な情報源

トランプ大統領の国連演説・イラン政策

ホワイトハウス「President Trump at the United Nations: While Others Have Talked, I Have Acted」

Reuters「Trump warns in UN speech he could ‘annihilate’ Iran without peace deal」

マクロン大統領・ガザと米仏協力

Reuters「In UN farewell, Macron denounces Trump’s Gaza diplomacy as spectacle of shame」

フランス大統領府「81st session of the United Nations General Assembly in New York」

Reuters「France mulls new UN Security Council resolution on Hormuz」

ルラ大統領・ブラジル選挙と主権

Reuters「At the UN, Brazil’s Lula warns against foreign interference in upcoming election」

Agência Brasil「O Brasil não cabe no quintal de ninguém」

国連ブラジル「Assembleia Geral da ONU」

ブラジル高等選挙裁判所(TSE)「Eleições 2026」

日本の立場・日米首脳会談

外務省「日米首脳会談」

首相官邸「国連総会出席等についての内外記者会見」


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