北朝鮮兵捕虜はなぜ韓国へ?ゼレンスキー氏の公表が外交問題になった理由
「ロシアでウクライナ軍の捕虜になった北朝鮮兵が、なぜ韓国にいるの?」
今回のニュースを見て、まずそこが気になった人も多いのではないでしょうか。
しかも、韓国政府が先に発表したわけではありません。2026年9月23日、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が国連総会の演説で、捕虜となった北朝鮮兵2人を韓国へ移送したことを明らかにしました。2人は2025年1月にロシア西部クルスク州でウクライナ軍に拘束され、2026年9月中旬に韓国へ移送されました。(Reuters · Reuters)
ところが、この公表をきっかけに別の問題が浮上します。
韓国は「公表しないことで合意していた」と主張し、ウクライナ側は「そのような合意はなかった」と否定したのです。
そして10月2日、韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は、事実を認めて公に謝罪しなければ「追加措置」を取ると表明しました。(Reuters)

※ 本文中の画像は、記事の理解を助けるためにAIで制作したイラストです。実際の写真ではなく、人物・場所・状況の表現が実際と一部異なる場合があります。
では、そもそもなぜ北朝鮮兵が韓国へ移されたのでしょうか。
そして、なぜ「公表したかどうか」がここまで大きな外交問題になっているのでしょうか。
まず何が起きた?捕虜2人の韓国移送を時系列で整理

今回の出来事は、2026年9月に突然始まったわけではありません。
発端は2025年1月、ロシア西部クルスク州でウクライナ軍が北朝鮮兵2人を拘束したことです。その後、2人は韓国へ行きたいという意思を示し、韓国政府も本人が希望すれば受け入れるとの立場をウクライナ側に伝えてきました。(韓国外務省 · Reuters)
流れを整理すると、こうなります。
| 時期 | 起きたこと |
|---|---|
| 2025年1月 | ウクライナ軍がロシア西部クルスク州で北朝鮮兵2人を拘束 |
| 2026年7月8日 | 李在明氏とゼレンスキー氏が会談。捕虜本人の自由意思、国際法、人道原則に沿って扱う方針を確認 |
| 2026年9月中旬 | 2人が韓国へ移送 |
| 9月23日 | ゼレンスキー氏が国連総会で韓国への移送を公表 |
| 9月27日 | 韓国大統領府がウクライナに説明と謝罪を要求 |
| 9月30日 | 韓国国情院の国会報告として、移送に軍事支援などの条件はなかったことが明らかに |
| 10月1日 | ウクライナのシビハ外相が「外交的な誤解」と述べ、早期解決を希望 |
| 10月2日 | 李大統領が、謝罪拒否が続けば「追加措置」を取ると表明 |
7月の首脳会談で公に確認されたのは、捕虜問題を本人の自由意思、国際法、人道主義の原則に沿って解決するという方針でした。(韓国大統領府)
ここで注意したいのは、この公表された首脳会談の文書には「移送を秘密にする」という記述はないことです。
韓国側が主張している「非公開合意」は、首脳会談の公表文そのものとは別に、移送をめぐる実務協議の過程で成立していた、という説明です。
そもそも、なぜ北朝鮮兵を韓国が受け入れたの?

大きな理由は、2人が韓国へ行く意思を示していたことです。
韓国政府は以前から、ウクライナ軍に捕虜となった北朝鮮兵が韓国行きを希望した場合には受け入れるという立場を示していました。2025年3月の韓国・ウクライナ外相電話会談でも、韓国側は本人が韓国行きを希望すれば必要な保護と支援を行うとの立場を伝えています。(韓国外務省)
2026年7月の首脳会談でも、両首脳は本人の自由意思を尊重し、国際法と人道主義原則に沿った解決を目指すことで一致しました。(韓国大統領府)
では、「戦争捕虜なら戦争が終わった後に北朝鮮へ返すのでは?」と思うかもしれません。
捕虜の送還は国際人道法上の重要な原則ですが、今回のように本人が第三国への移送を望み、帰国すれば迫害や重大な危険に直面する可能性が問題になるケースでは、捕虜法と人権上の保護をどう両立させるかが論点になります。Reutersは、専門家の見解として、安全な第三国への移送が国際人道法上可能になり得ると報じています。(Reuters)
つまり今回の韓国移送は、「捕虜だから自動的に韓国へ送られた」という話ではありません。
本人の意思、帰国時の安全、人道上の保護、韓国側の受け入れ方針が重なった特殊なケースと考える方が分かりやすいでしょう。
では、なぜ韓国は移送を公表したくなかったの?

韓国側が挙げている理由は、単に「政府が知られたくなかったから」ではありません。
まず大きいのが、捕虜本人と北朝鮮に残る家族の安全です。
韓国大統領府は、移送を公表しないことについて安全保障・外交・人道上の懸念があり、捕虜本人と家族の安全も考慮したと説明しています。さらに韓国側は、協議の過程でウクライナ側自身が秘密保持を求めていたとも主張しています。(Reuters)
韓国側の説明では、ウクライナ国内で「捕虜交換に使える北朝鮮兵を手放したのではないか」という批判が出る可能性も、非公開を求めた背景の一つでした。
つまり韓国側の説明通りなら、非公開には、
捕虜本人・家族の安全
+ ウクライナ側の捕虜交換をめぐる事情
+ 韓国の外交・安全保障上の懸念
が重なっていたことになります。
「非公開合意はあった」と「なかった」、何が食い違っている?

ここが今回の外交問題の中心です。
韓国とウクライナは、「2人が韓国へ移送された」という事実では争っていません。
食い違っているのは、その事実を公表しないという合意が存在したのかです。
| 論点 | 韓国側の説明 | ウクライナ側の説明 |
|---|---|---|
| 非公開の取り決め | 移送を非公開で扱う明確な了解があった | そのような秘密保持の合意はなかった |
| 公表の問題 | 十分な事前協議なく了解に反して公表した | 捕虜の行方を隠すべきではないとの立場 |
| 現在の対応 | 事実確認と公式謝罪を要求 | 「外交的な誤解」とし、早期解決を希望 |
韓国外務省は9月29日、ウクライナとの間に移送を非公開とする「明確な了解」があったとの立場を改めて示しました。(聯合ニュース)
一方、ウクライナ大統領府のドミトロ・リトビン顧問は、そのような秘密保持の合意はなかったとの立場を示しました。10月2日時点でも、Reutersは韓国が合意の存在を主張する一方、ウクライナは否定していると報じています。(Reuters)
ここは非常に重要です。
7月8日の首脳会談で公開された公式文書には「非公開」という表現はありません。確認できるのは、本人の自由意思と国際法、人道主義原則を尊重するという合意です。(韓国大統領府)
そのため現在の公開情報だけでは、非公開の了解がどの段階で、誰と誰の間で、どの範囲まで共有されていたのかを完全に確定することはできません。
ゼレンスキー氏はなぜ国連で公表したの?

この点は、現時点では断定できません。
ゼレンスキー氏は国連総会で北朝鮮兵2人を韓国へ移送したことを明らかにし、北朝鮮が兵士をロシアの戦争に投入していることを批判しました。(Reuters)
一方、韓国国情院は国会への報告で、今回の公表には韓国国内でウクライナへの軍事支援などを求める世論を強める狙いがあった可能性があるとの分析を示しました。(Reuters)
ただし、これはあくまで韓国情報当局の分析です。
ウクライナ政府自身が「韓国から武器支援を得るために発表した」と認めたわけではありません。
また国情院によると、2人の移送と引き換えに韓国がウクライナへ軍事支援などを約束した事実も確認されていません。(Reuters)
「南北の軍事衝突が迫っている」とウクライナが言ったの?

ここは報道を見る際に少し注意が必要です。
10月2日、李大統領はウクライナ側について、南北間の軍事衝突が迫っているかのような趣旨の発信までしていると批判し、朝鮮半島での戦争をあおるような言動だとの認識を示しました。(Reuters)
ただし、「南北の軍事衝突が目前に迫っている」という文言そのものが、ウクライナ政府による公式な軍事情勢予測として確認されたわけではありません。
確認できるのは、ウクライナ側が北朝鮮軍の戦闘経験や今後の軍事的利用をめぐる見方を発信していること、そして李大統領がその発信を強く問題視していることです。
つまり、「朝鮮半島で戦争が間近に迫っている」という新事実が確認されたニュースではありません。
ウクライナ側の北朝鮮軍に関する発信と、それに対する韓国大統領の強い反発が重なった問題として見る必要があります。
韓国の「追加措置」とは何をするという意味?

現時点で、韓国政府は「追加措置」の具体的内容を明らかにしていません。
李大統領は10月2日、事実の認定と公の謝罪を拒み続けるなら追加措置を取るとの考えを示しましたが、支援停止や外交関係の引き下げなど、具体的な措置を指定したわけではありません。(Reuters)
一方で、両国が完全に対話を止めたわけでもありません。
韓国の趙顕(チョ・ヒョン)外相とウクライナのアンドリー・シビハ外相は協議を続けています。シビハ外相は今回の問題を「外交的な誤解」と表現し、韓国はウクライナにとって重要な国だとして早期の解決を望む考えを示しました。(Reuters)
つまり10月2日時点では、
韓国が説明と謝罪を要求している
→ ウクライナは関係修復を求めている
→ 外交協議が続いている
→ 合意できなければ韓国が追加措置を取る可能性がある
という段階です。
まだ「韓国がウクライナ支援を打ち切ることを決めた」といった状態ではありません。
【結論】このニュースは、こう理解すればいい
今回のニュースの出発点は、ロシア側で戦っていた北朝鮮兵2人がウクライナ軍の捕虜となり、本人たちの韓国行きの意思を踏まえて韓国へ移送されたことです。
ところが本当の外交問題になったのは、「2人を韓国へ送ったこと」そのものではなく、「その事実を公表しないという了解があったのか」でした。
韓国側は、移送を非公開で扱う明確な了解があったと説明しています。
ウクライナ側は、そのような秘密保持の合意はなかったと否定しています。
そのため今回の対立は、単なる「発表のタイミング」の問題ではありません。
非公開の了解が存在したのか、存在したとすれば誰と誰の間でどこまで共有されていたのか、そして両国が損なわれた信頼をどう回復するのか。
ここが今後の焦点です。
北朝鮮兵捕虜、気になる疑問から読み解く
Q. 韓国へ移送された北朝鮮兵は何人ですか?
2人です。ウクライナ軍が2025年1月にロシア西部クルスク州で拘束し、2026年9月中旬に韓国へ移送されました。(Reuters)
Q. 2人は自分で韓国行きを希望したのですか?
韓国政府は、本人が韓国行きを希望する場合には受け入れるとの原則をウクライナ側に伝えてきました。Reutersも、2人が韓国へ行きたい意思を示していたと報じています。(韓国外務省 · Reuters)
Q. 韓国とウクライナに非公開合意は本当にあったのですか?
両国の説明が一致していません。韓国側は移送を非公開で扱う明確な了解があったとしていますが、ウクライナ側はそのような合意の存在を否定しています。(聯合ニュース · Reuters)
Q. 李在明大統領とゼレンスキー大統領が直接、秘密保持を約束したのですか?
公開されている7月8日の首脳会談文書からは確認できません。公表文で確認できるのは、捕虜本人の自由意思を尊重し、国際法と人道主義原則に沿って問題を解決するとの合意です。(韓国大統領府)
Q. 韓国は捕虜を受け入れる代わりにウクライナへ武器支援を約束したのですか?
韓国国情院の国会報告によると、そのような交換条件はありませんでした。ウクライナ側も、移送に特別な条件を付けなかったと報告されています。(Reuters)
Q. なぜ2人を北朝鮮へ戻さなかったのですか?
2人が韓国行きを望んでいたことに加え、帰国した場合の安全や人権上の懸念も関係します。Reutersは専門家の見解として、安全な第三国への移送が国際人道法上可能になり得ると報じています。(Reuters)
Q. ゼレンスキー大統領は韓国から武器を得るために公表したのですか?
確認された事実ではありません。韓国国情院は、韓国内でウクライナへの追加支援を求める世論が強まることを期待した可能性があるとの分析を示しましたが、これは情報当局の分析であり、ウクライナ政府が認めた動機ではありません。(Reuters)
Q. 韓国の「追加措置」はウクライナ支援停止という意味ですか?
現時点では分かりません。李大統領は追加措置の具体的な内容を公表しておらず、両国間の外交協議も続いています。(Reuters · Reuters)
今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂
これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!
主な情報源
捕虜の拘束・韓国移送と受け入れ方針
Reuters「Ukraine sent two captured North Korean soldiers to South Korea, Zelenskiy says」
Reuters「What comes next for North Korea soldiers transferred from Ukraine to South Korea?」
非公開合意をめぐる双方の説明
Reuters「South Korea demands apology from Ukraine over disclosure of North Korean PoW transfer」
Reuters「South Korea made no military aid pledge to Ukraine over transfer of North Koreans」
10月2日時点の外交対立・協議状況
Reuters「Ukrainian minister hopes to heal ‘misunderstanding’ with South Korea」
Reuters「South Korea’s Lee threatens action against Ukraine over transfer of North Koreans」