愛知・名古屋アジア大会、なぜ「選手村なし」?クルーズ船・移動式宿泊施設・ホテルに分かれた理由
愛知・名古屋アジア大会が9月19日に開幕しました。日本で夏季アジア大会が開かれるのは、1994年の広島大会以来32年ぶりです。(JOC)
ところが、大会のニュースを見ていて少し不思議に感じた人もいるのではないでしょうか。
「アジア大会なのに、選手村がないの?」
「では、選手たちはいったいどこに泊まっているの?」
実は「選手村なし」というのは、選手の宿泊施設そのものがないという意味ではありません。今回造らなかったのは、五輪などで見慣れた「一つの場所に巨大な宿泊棟を集める従来型の選手村」です。
代わりに、大型クルーズ船、名古屋港ガーデンふ頭の移動式宿泊施設、名古屋市内や愛知県内などのホテルを組み合わせて選手団を受け入れています。OCAも「traditional Athletes’ Villageはない」と説明しています。(OCA)

では、なぜこんな珍しい方式になったのでしょうか。
「選手村なし」は、選手の泊まる場所がないという意味?
正確には違います。愛知・名古屋大会には一か所に集約した従来型の選手村がなく、複数の宿泊施設を組み合わせた仕組みになっています。

中心的な役割を担うのが、名古屋港の「アスリート・プラザ」です。
一つは金城ふ頭に停泊する大型クルーズ船「コスタ・セレーナ」。船内には約1500室の客室があり、大会期間中は延べ約4000人が利用する予定とされています。レストランやフィットネス施設も備えています。(テレビ愛知)
もう一つが、ガーデンふ頭に設置された移動式宿泊施設「アジアゲームズヴィラ」です。2026年春の時点では約200棟で約2000人を受け入れる計画と説明されていました。(愛知県)
さらに競技会場との距離などに応じて、選手・役員はホテルにも分散して宿泊します。
つまり今回の仕組みは、
| 宿泊形態 | 主な場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| ホテルシップ | 名古屋港・金城ふ頭 | 大型クルーズ船を長期間停泊させて利用 |
| アジアゲームズヴィラ | 名古屋港・ガーデンふ頭 | 大会後も再利用できる移動式宿泊施設 |
| ホテル | 名古屋市内・愛知県内など | 競技会場との距離などに合わせて分散配置 |
という形です。
OCAや大会関係者が「Athletes’ Village」と呼ぶ場合もありますが、私たちが一般に想像するマンション型の巨大選手村とはかなり違います。
もともとは普通の選手村を造る予定だったの?
はい。当初は名古屋競馬場の跡地にメイン選手村を整備する計画がありました。

愛知県の説明によると、従来型のメイン選手村は、大会後に住宅などとして使う建物を一時的に借り、選手村用の内装を施すほか、ダイニングなど必要な施設を仮設で整備する計画でした。
その「選手村仕様にするための内装工事や仮設施設」の当初想定額が300億円です。これは競馬場跡地全体の再開発費が300億円だった、という意味ではありません。(愛知県議会)
ところが、開催構想を作った2016年前後から時間がたつ間に、建設資材や人件費が大きく上昇しました。
2023年3月、大村秀章愛知県知事は、300億円と見ていた選手村関連の建設費について、当時の物価水準では「ざっくり倍」になる可能性があるとの認識を示し、メイン選手村の整備を取りやめて既存ホテルを活用する方針を説明しました。新型コロナ禍を経験し、大人数を一か所に集中させるリスクも判断材料の一つだったとされています。(愛知県)
流れを並べると分かりやすくなります。
| 時期 | 選手村をめぐる動き |
|---|---|
| 当初 | 名古屋競馬場跡地にメイン選手村を整備する計画 |
| 2023年3月 | 建設費上昇などを踏まえ、メイン選手村の整備取りやめを決定 |
| その後 | ホテル中心の分散宿泊を検討 |
| 2024〜2025年 | OCAとの協議を経てクルーズ船と移動式宿泊施設を組み合わせる方式へ |
| 2026年9月 | 分散型の宿泊体制で大会開幕 |
つまり「最初から船や仮設住宅を使う計画だった」わけではありません。
それなら、全部ホテルに泊まればよかったのでは?
実は大会側も当初、選手村を造らずホテルを活用する方向で進めていました。

ただ、ホテルが何十か所にも分かれると、別の問題が出てきます。
選手を競技会場へ運ぶ車両の管理、各宿泊先の警備、食事や医療、各国オリンピック委員会向けのサービスなどを多くの場所で用意しなければなりません。そして、国や競技を超えて選手が交流する「選手村らしい機能」も弱くなります。
こうした運営上の課題に対応するため、クルーズ船とガーデンふ頭の移動式宿泊施設を組み合わせ、「アスリート・プラザ」という共通拠点を設ける形になりました。(OCA)
計画段階では、クルーズ船に4600人、アジアゲームズヴィラに2400人、名古屋市内のホテルに1200人を配置する案も示されていました。(OCA)
その後、実際の受け入れ規模や配置は調整され、開幕時点ではクルーズ船約4000人、ガーデンふ頭の移動式宿泊施設約2000人を中心に、残りをホテルなどで受け入れる形となっています。
ここで大事なのは「ホテルか選手村か」という二択ではなかったことです。
巨大な建物を新設せず、それでも選手村に必要な機能はできるだけ残す。その折衷案が今回の方式でした。
クルーズ船や「コンテナ」で、本当に選手村の代わりになるの?
ある程度は代替できます。ただし、従来型の選手村とまったく同じ条件になるわけではありません。

まず、報道で「コンテナ」と呼ばれている施設は、貨物用コンテナにそのままベッドを置いただけのものではありません。
愛知県は40フィート規格の構造を使った移動式宿泊施設と説明しており、ガーデンふ頭には約200棟が設置されました。大会後の再利用も想定されています。(愛知・名古屋2026大会組織委員会)
クルーズ船のコスタ・セレーナにも客室のほか、食事施設やフィットネス設備があります。ガーデンふ頭側には選手間交流エリアやサービス機能も設けられています。
大会組織委員会は、既存施設やクルーズ船を使い、新設工事を抑えることを大会のサステナビリティ施策として位置づけています。移動式宿泊施設についても、大会終了後の再利用を前提としています。(愛知・名古屋2026大会組織委員会)
違いを単純化すると、こうなります。
| 比較項目 | 従来型の選手村 | 愛知・名古屋大会 |
|---|---|---|
| 宿泊 | 一か所に大規模集約 | 船・移動式施設・ホテルに分散 |
| 新設工事 | 多くなりやすい | 既存・移動可能な施設を活用 |
| 選手同士の交流 | しやすい | 共通拠点を設けて補う |
| 輸送・警備 | 集中管理しやすい | 複数拠点の管理が必要 |
| 大会後 | 建物の後利用が課題 | 船は撤収、移動式施設は再利用可能 |
要するに、建設の負担を小さくする代わりに、輸送や宿泊管理の難しさが増える構造です。
では、なぜ開幕前から宿泊問題が話題になったの?
最大の理由は、分散型の仕組みが実際の大会規模に対応できるかどうかが、開幕直前まで問われたからです。

大会組織委員会は開催都市契約に基づき、最大1万5000人を収容できる宿泊施設を準備してきました。
しかし2026年8月、選手団が1万5000人を超える見込みとなったため、一部のチーム役員については各国・地域のNOC側で宿泊施設を確保する方式も導入されました。組織委員会は当時、人数は日々変動しており最終人数は確定していないと説明しています。(愛知・名古屋2026大会組織委員会)
開幕期の海外報道では、選手と役員は約1万7000人規模に達したと報じられています。想定より大きくなった大会規模が、もともと複雑な宿泊・輸送計画にさらに負荷をかけた形です。(Reuters)
実際、一部の選手からは、部屋の狭さやベッドの大きさなどについて不満が出ました。開会式前には宿泊や輸送をめぐるトラブルも報じられています。(Reuters)
ただし、「宿泊施設全体が機能していない」とまで言うのは正確ではありません。
9月20日にはIOCのカースティ・コベントリー会長がガーデンふ頭を視察し、客室の静かさや空調などを挙げて施設を肯定的に評価しました。(Reuters)
つまり現時点では、
「一部の選手から具体的な不満が出ている」
ことと、
「大会側やIOCが宿泊方式そのものを一定程度評価している」
ことが同時に存在しています。
この「選手村なし」方式は成功だったと言えるの?
まだ結論を出す段階ではありません。大会は10月4日まで続くため、宿泊だけでなく輸送、食事、警備、選手の休養環境まで含めて最後まで機能するかを見る必要があります。

OCA側は、大会後に使い道が乏しい巨大施設、いわゆる「ホワイトエレファント」を生まないことや、コストを抑えることを今回の判断理由として挙げています。(Reuters)
一方で、建物を造らなければすべてが簡単になるわけではありません。宿泊地が分かれれば、その分だけバス運行や警備、食事、選手団サービスの調整は複雑になります。
評価するなら、少なくとも次の4点を見る必要があります。
| 見るポイント | 確認したいこと |
|---|---|
| 費用 | 従来型の選手村より実際に負担を抑えられたか |
| 選手の快適性 | 睡眠、食事、トレーニング環境に問題がなかったか |
| 輸送・運営 | 分散宿泊でも競技会場への移動や警備が安定したか |
| 大会後 | 移動式施設が予定通り再利用され、無駄を減らせたか |
愛知・名古屋大会の方式が、今後の国際大会でも使える新しいモデルになるのか。
それとも、大規模大会ではやはり一体型の選手村に利点があると再確認されるのか。
答えが見えてくるのは、16日間の大会運営が終わってからです。
ニュースほどきの一言まとめ
愛知・名古屋アジア大会に「選手村がない」というのは、選手の宿泊先が用意されていないという意味ではありません。
当初予定していた大規模なメイン選手村を建設費上昇などを背景に取りやめ、クルーズ船、移動式宿泊施設、ホテルを組み合わせる分散型の方式に切り替えた、というのが実際の姿です。
建設費や大会後の施設利用という面では合理性があります。一方で、宿泊地が分散するほど輸送や警備、選手の快適性をどう確保するかという別の難しさが生まれます。
今回の大会は、その新しいやり方が大規模な国際スポーツ大会でどこまで通用するのかを試すケースでもあります。
アジア大会 選手村、よくある疑問をまとめて整理
Q. 愛知・名古屋アジア大会には本当に選手村がないのですか?
従来型の一体的な選手村はありません。ただし選手の宿泊施設はあり、クルーズ船、ガーデンふ頭の移動式宿泊施設、ホテルなどに分かれて滞在しています。
Q. なぜ普通の選手村を造らなかったのですか?
建設資材や人件費の上昇によって当初計画より費用が大きく膨らむ可能性が高まったことが主な背景です。2023年にメイン選手村の整備を取りやめ、既存施設を活用する方向へ切り替えました。
Q. 「300億円の選手村」とは、選手村全体の建設費ですか?
厳密には違います。愛知県の説明では、300億円は大会時に選手村として使うための内装工事やダイニングなどの仮設整備費として計上されていた金額です。
Q. 選手はクルーズ船のどこで生活するのですか?
大型客船コスタ・セレーナの客室を宿泊施設として使います。船内には客室のほか、食事施設やフィットネス設備もあります。
Q. 「コンテナハウス」は貨物コンテナに泊まるということですか?
単純な貨物コンテナをそのまま使うわけではありません。規格化された構造を使って内部を宿泊用に整備した移動式施設で、大会後の再利用も計画されています。
Q. なぜホテルだけではいけなかったのですか?
多数のホテルに完全分散すると、輸送や警備、選手団サービスが複雑になり、選手同士が交流する共通空間も作りにくくなります。そのためクルーズ船とガーデンふ頭を中心としたアスリート・プラザが設けられました。
Q. 宿泊施設について選手から不満は出ていますか?
はい。一部の選手から部屋の狭さやベッドの大きさなどについて不満が報じられています。一方、9月20日に施設を視察したIOCのコベントリー会長は、ガーデンふ頭の宿泊環境を肯定的に評価しています。
Q. 分散型の選手村は今後も増えるのでしょうか?
現時点では分かりません。費用削減だけでなく、選手の快適性、輸送、警備、大会後の再利用まで含めた評価が必要で、愛知・名古屋大会の運営結果が一つの参考材料になります。
今日のニュースほどき、理解の助けになりましたか?🙂
これからも、ニュースの「なぜ?」をやさしく、わかりやすくほどいていきます!
主な情報源
大会概要・開幕
Reuters「Asian Games open in Nagoya with glitzy ceremony after troubled buildup」
選手村計画の見直し・費用
愛知県議会「教育・スポーツ委員会審査状況 2025年12月11日」
宿泊施設・アスリート・プラザ
OCA「IOC President, OCA President to visit Asian Games athletes’ village」
OCA「Technical Delegates receive Asian Games accommodation update」
宿泊をめぐる課題・開幕後の評価
愛知・名古屋2026大会組織委員会「アジア競技大会の選手団の受入れに向けた対応について」
Reuters「Asian Games Athletes’ Village would have been a white elephant, OCA says」
Reuters「IOC chief Coventry gives thumbs-up to Asian Games accommodation despite criticism」